売上に一喜一憂、でも悲壮感はない
通常、古本屋を開業するには数年間の修行が必要といわれる。著者は大手書店で働いた経験があるとはいえ、古書業界はまったくの素人。そんな右も左もわからない新米店主を支援してくれたのが、地元の業者仲間だ。これは古書業界全体に共通することなのかもしれないが、横のつながりが強い。本来ならば、ライバル、商売敵だ。新参者が現れれば、客を奪われかねない。しかし、そうは考えない。新規参入を歓迎し、応援する。むしろ業界が活性化しプラスになるととらえるようだ。一般のビジネス界とは違う世界である。
もちろん、商売はそんなに甘くない。本そのものが売れない時代にあって、古書も同じだ。著者も「毎日の売上に一喜一憂しながら」の暮らしだ。しかし、悲壮感はない。仕事はたいへんだけど、楽しい。どうにか生活も成り立っている。
いつかは独立したい、自分の店を持ちたいと考えている人にとって、本書はいろんなヒントが見つかるだろう。勇気ももらえるはず。著者も、まだ偉そうに語れる立場ではないと自認しつつ、そうした若い人や初心者の「励みになるかもしれない」との思いで書いたと振り返っている。
著者は2013年、本書の前編にあたる処女作『那覇の市場で古本屋』(ボーダーインク)を出しており、こちらもおすすめ。同書の表紙の写真がとてもいい。漬物屋さんと並んで映る店舗に、本に囲まれてポツンと店主が座っている。あらためて、ああこんなふうに暮らせたらいいな、と夢想してしまう。