一昔前までは当たり前だった野心が失われた

若い男性たちにいたっては、出世して大きなお金を稼ぎ、より素敵な女性とお付き合いできるようになりたいという、一昔前なら当たり前だった欲望さえ失われているのではないですか。身のほどを知らない高望みなど絶対にせず、万事、低めの目標しか持たない。これで足りていると思っている。

でも、私は違うと思うんですよ。高い望みを持ち、野心を胸に抱いて、目標にたどり着くまで地道に努力を重ねることがそもそも大事なのであって、野心はネガティブに捉えられるべきではない。また、金銭的な余裕は自分が世の中に認められていく度合いに比例して大きくなっていくものだということは、私自身が経験してきたことでもあります。野心を持つこと、お金を欲しがることは、けっして薄汚いことではありません。

お金があることで、たとえばある日思い立ってヨーロッパまでオペラの公演を見にいくことができる。そういう時間をつくることができることにも、お金が関わっていますよね。知的な好奇心を満足させるために必要なお金を求めること、そのお金を得られるレベルの人になりたという野心を持つことが、どうしてマイナスのイメージで捉えられるのでしょう。野心は悪者と、なぜ思うのか。私はむしろ、野心を持って自分を引き上げていこうという姿勢を、いまの日本人はもう一度取り戻すべきではないかと思います。

スカラ座(イタリア・ミラノ)

私自身、ずいぶんとお金を使ってきました。おいしい食事、着物、洋服、先ほども書いたバッグなどのブランド品、家具などなど……。あのレストランで食事をしてみたい、あのブランドのコートを着てみたい、最高級の生地で和服をつくりたい。そういった、いろいろな欲望を満たすために使うお金は、有意義なお金だと思っています。

本当においしいお寿司もフレンチも、食べてみなければおいしさを知る由もない。歌舞伎だって、劇場で観て初めて、いかにすばらしいかがわかる。そして、知れば知るほど興味は深くなる。

そういう、欲望や好奇心を満足させるために惜しみなく使えるだけのお金を手に入れる。それが、日々生きるうえで大事なのはいうまでもないことではないでしょうか。