原稿料と印税だけで食べていけている作家は、いまの日本に55人しかいない――。これは渡辺淳一先生がおっしゃったことです。
それくらい、作家が書くことだけでお金を稼ぐのは難しい時代になりました。私自身は、ありがたいことに2013年は『野心のすすめ』という新書がヒットして、金銭的にはとても助かりましたが、ヒットはユージュアルなものではありません。ですから、実は常に不安感を持っています。
本のタイトルに野心という言葉を当てたのは担当の編集者ですが、野心という言葉が出てきた背景にはこんなことがありました。
この人と一緒に東北の被災地を回っていたときのことです。
ボランティアで被災地を回る中で、私はある高校で講演をしました。そこで、かつての私が40数社の就職試験に失敗して途方にくれる冴えない学生であったことから始めて、なりたい自分になるために一歩ずつ努力を重ねてきたことなどを話しました。自分にとって恥ずかしい過去ですが、被災地の高校生を激励することが目的でしたので、お話しさせてもらったのです。
高校の先生も、林先生はとても有名な作家ですと紹介してくださった。
けれど、聴衆である肝心の高校生たちが全然、反応しないんですね。
へえ? このおばさん、作家なんだー、くらいの表情をしている。がっかりしてしまいますけれど、いまの高校生は本を読まないから、私のことなど知らなくて当たり前なのかもしれません。
それでも、真面目に努力する人のことを「イタい」と言ったりする風潮、努力を馬鹿にする風潮が嫌だから、それが伝わるようにとお話をしたんです。
そうしたら、たったひとり、この話に感動した人がいた。それが『野心のすすめ』の編集者です。
この本で私は、エルメスのバーキンを1度に3つ買った話や、「誌上バザール」にバーキンを出品した話を書いています。私、見栄っ張りなのでブランド品は大好きなんです。
少し有名になった頃から、そんなにお金があったわけではないけれど、おしゃれやブランド品に興味を持ちだしました。自然と欲しいと思うようになったのです。その頃はまだ四畳半で生活していたのにバーキンに憧れるなんて身のほど知らずというものですが、逆に、いまの日本人は、妙に身のほどを知りすぎてしまって無理をしないから、社会から活力が失われているとも思う。