背後にある真の姿を把握・理解せよ

1998年から2005年にかけて、私はユニクロ(ファーストリテイリング)にお世話になりました。この7年間は私にとって、柳井正さんのもとで彼流の経営について叩き込まれた時代でした。

出会いは、衝撃的なものでした。

ローソン 玉塚元一社長

旭硝子を退職し、日本IBMに転職した98年、私が経営コンサルタントとしてファーストリテイリングに、コンサルティング業務のプレゼンを行った時のことでした。逆に、柳井さんは私に、経営の本質について説明を始めました。

小売業の経営は、ひたすら現場を歩いて、できるだけ正確な情報を得ること、出てくるあらゆる数字から、その背後にある真の姿を把握・理解することを怠ってはならない。巷間でもてはやされている経営理論やセオリーで、経営がうまくいくなんてことはありえない──と、断言しました。

その迫力と説得力に私の心は揺さぶられました。結果、入社からわずか4カ月で日本IBMを退社し、ユニクロに入社することになったのです。

柳井さんは驚異的な読書家で、経営書を中心に毎月2冊くらい「これ、読んでおいて」と、私に手渡しました。ほぼ毎月です。その中の一冊が、ハロルド・ジェニーンとアルヴィン・モスコーの共著の『プロフェッショナルマネジャー』(プレジデント社刊)でした。私はむさぼるように読みました。本を汚してはいけないと思い、すべてコピーして読み込んだことを今も覚えています。

ジェニーン氏は自著の中で、成果こそがすべてであり、結果を出すことだけが「経営」という名に値するものだと書いており、そのためには現場の状況を把握し、上がってくる数字を読み解く努力を惜しんではならないと言っています。

また、本を読むときは、初めから終わりへと読み進むが、ビジネスにおける経営はそれとは逆で、終わりから始めて、そこに到達するためにできる限りのことをすることだとも言っています。

これは、まず目的を見据えて、そこに達するための目標を一つずつクリアしていくことが肝要だという意味です。

ジェニーン氏の『プロフェッショナルマネジャー』は、私にとって経営の指針を示す一冊であると同時に、柳井さんから学んだことを想起させる貴重な書物でもあります。そして、プロフェッショナルマネジャーとは、私が目指すべき永遠のテーマでもあります。