藤田 智(アメリカンフットボール・富士通ヘッドコーチ)

ふじた・さとし●1967年生まれ、愛知県出身。東海高校から京都大学に進学し、アメリカンフットボールを始める。学生時代はクオーターバック(QB)として活躍。卒業後はコーチとなり、1995年に京大で、2000年にはアサヒ飲料で日本一を経験した。日本代表のコーチも務めた。2005年から、富士通のヘッドコーチとなっている。

よき指導者には、ストーリーを描く力が備わっている。あまたの情報をインプットし、最善の戦術を選択する。一番大事なことは、選手たちが「当たり前のことを当たり前にすること」である。

でも、これが難しい。そのためには? と問えば、富士通フロンティアーズの藤田智ヘッドコーチ(HC)はこう、即答した。

「ちっちゃいことに、自分のできることに集中する。それが一番、緊張しない方法です。例えば、スタートの一歩に集中するのです」

アメリカンフットボールの日本社会人選手権決勝『ジャパンXボウル』(15日・東京ドーム)の記者会見の席上だった。決勝に出場する富士通とIBMビッグブルーのHC、選手たちが並ぶ中、メディアに一番囲まれたのは、やはり藤田HCだった。

紳士である。同じような質問にも、イヤな顔ひとつせず、丁寧に答えていく。富士通では過去4度、決勝で敗れている。つまり、今回、5度目の挑戦である。

準決勝でライスボウル(日本一決定戦)4連覇のオービックを倒しての決勝進出。どうしても、優位との下馬評となる。

「一発勝負はわからない」と、もちろん、百戦錬磨の藤田HCは気を抜かない。

「『初優勝を』というプレッシャーは強いけれど、目の前のフットボールに集中するしかない。ゲームに勝ちたいだけじゃなく、一個ずつ、自分たちのフットボールをやっていくしかないのです」

藤田HCは現役時代、京大のQBとして活躍した。卒業後は京大コーチに就任し、1995年に日本一を経験した。その後、アサヒ飲料チャレンジャーズのヘッドコーチとなり、2000年にチームを日本一に導いた。藤田イズムの根幹には「アメフトというゲームを見抜く眼力」がある。

アメフトのコーチとしてのオモシロさを聞けば、「2つ、あります」と言った。

「チームを作っていく段階と、試合の中でのオモシロさです。アメリカンフットボールは、コーチが試合に関わる割合が多いスポーツだと思います。だから、コーチの準備とか、試合への出し方とかが、勝敗を左右します。もうひとつが、そこにいくまでに、選手をどうそろえて、準備させて、鍛えていくのかという楽しみです」

アメフトの魅力は?

「一般の人に見ていただきたいのは、戦術の駆け引きです。1プレーずつ、プレーが止まって、作戦を持ってプレーに臨みます。さっきパスが通ったから、今度はランして、それを相手のディフェンスはどう止めるのか、といったところです。野球でいうと、ピッチャーの配給を見るみたいなものです」

なるほど、である。実はジェントルマンなれど、麦酒は底なしで、居酒屋では豪快に飲み、快活に話すのだそうだ。酒量は? と聞けば、藤田HCは「たしなむ程度です」といたずらっぽく笑った。

座右の銘が『上善水の如し』である。これは、老子のコトバ。最高の善は水のようなもので、器に従ってカタチを変え、自らは謙虚に低い位置に身を置く、といった意味を持つ。

「最近テレビ(NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』)でやっているからというわけじゃないけど、私は、“水の如し”を肝に銘じています。プレーヤーがプレーするわけで、僕らはプレーヤーに合わせて、カタチを変えて、サポートしないといけません。その時、その時、必要なカタチに変わる必要があるのです」

さて、藤田HCはジャパンXボウルで、どうカタチを変えるのか。選手たちが当たり前のことを当たり前にやれば、勝利の美酒が待っている。

(松瀬 学=撮影)
【関連記事】
「教え魔になるな」-相馬朋和
「表現してナンボやろ」-小畑江至
「緊張で楽しめないともったいない」-萩野公介
「お腹の中にいる頃から気球に乗っていた」-藤田雄大
「今日が残りの人生の最初の日」-瀧澤 直