――では、次回作の予想でもして締めくくりましょうか。

【助川】最近の村上小説のなかではお父さんの話がどんどん肥大化していますが、ちょっとずつ距離が詰まってきているんですよね。全然出てこなかったのが出てくるようになって。『1Q84』では父のことをかなり踏み込んで書いたと言われていますが、天吾とお父さんの関係よりも、ふかえりとお父さんの関係のほうが、村上春樹とお父さんの関係に近いですね。村上春樹のお父さんは僧侶で高校の先生ですごいインテリですから。

――天吾人のお父さんはNHKの集金人でしたよね。

【助川】村上春樹は子どものとき、『平家物語』を暗唱させられたりしたそうですが、ふかえりが『平家物語』を暗唱するシーンが出てきます。あの関係性を見て、やっぱりふかえりは戦闘美少女だなって納得しましたね。おたく少年は戦闘美少女みたいな彼女が欲しいんじゃなくて、戦闘美少女に美化された自分を託しているという説があるんだけど。

――ちょっとついていけなくなってきました。

【助川】春樹にとって、ふかえりはある意味で自画像なわけですよ。

――『多崎つくる』にも2組の父子が出てきますよね。多崎つくる父子と灰田父子。灰田親子は途中でどこかに行ってしまいますが。

【助川】あれも春樹お得意の謎ですが、いままでの謎とちょっと違うんですね。例えば『羊をめぐる冒険』で耳の女が途中でいなくなっても別に違和感ないんです。もう彼女は一緒にいられないんだっていうふうに言われると、なんとなく読者も納得する。違うフェーズに入るための犠牲としてね。感覚的にわかる。でも灰田君は本当に単に消えちゃってるだけ。今までは、誰かが消えるにしても、物語世界の約束として納得できる消え方だったんですが、灰田君は絶対にもう1回出てこなきゃいけない構えなのに出てこないんですよね。