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世界経済の行方に不透明感が漂う中、日本企業は稼ぐ力を回復し、日経平均株価は34年ぶりに最高値を更新しました。その流れを早くから予測し、日本企業、日本経済へのエールを送ってきたのが、 “伝説のコンサルタント”堀紘一さんです。あまたある企業の中から「伸びる会社」をいかに発掘したか、また、見逃してしまいがちな経済ニュースの重要ポイントはどこか。今回は、投資先を選ぶ上で「時価総額10兆円」を目安にするべき理由を公開します。

短期間に何倍にも伸びはしないが着実な成長が見込める

新NISAで投資をスタートした読者の皆さんをはじめとして、株式投資に興味をもつ方が増えていることと思います。今回は、株式市場での評価を測る一つの指標として、時価総額10兆円を超えている企業についてお話ししたいと思います。

2024年8月22日現在、時価総額が10兆円を超えている日本の上場企業が約20社あります。具体的に紹介しますと、下記の企業です。トヨタ自動車(約41.93兆円)、三菱UFJフィナンシャルグループ(約18.7兆円)、キーエンス(約17.0兆円)、ソニーグループ(16.8兆円)、日立製作所(16.3兆円)、リクルートホールディングス(14.4兆円)、ファーストリテイリング(14.4兆円)、NTT(13.8兆円)、東京エレクトロン(13.2兆円)、三井住友フィナンシャルグループ(12.9兆円)、三菱商事(12.6兆円)、信越化学工業(12.6兆円)、ソフトバンクグループ(12.5兆円)、中外製薬(12.0兆円)、第一三共(11.5兆円)、伊藤忠商事(11.2兆円)、任天堂(10.8兆円)、東京海上ホールディングス(10.8兆円)、KDDI(10.6兆円)。そのあとは、ソフトバンク(9.5兆円)、三井物産(9.1兆円)、JT(8.3兆円)、本田技研工業(8.3兆円)と続きます。

どのような市況にあっても、これらの実績豊富な大企業は、例外も3~4社ありそうですが短期間で何倍に値上がりすることこそないかもしれませんが、今後も着実に成長していくと考えられます。これらの企業は配当も高いですから、経済の勉強をしながら安心して投資できるでしょう。

【図版】堀さん連載③10兆円企業

このなかには、総合商社が3社含まれています。なかでも、「組織の三菱」とも言われる三菱商事は資源に強く、個々の社員はそれほど目立たなくてもチームプレーに徹して成績を出すという特色があります。それに対して、才能ある個人が商売に取り組んで結果を出し、資源分野を中心に会社を大きくしてきたのが三井物産です。また、消費者に近い川下領域の事業で成長してきたのが伊藤忠商事。このようにそれぞれに個性があり、どちらがよいということは言えません。

また、トヨタ自動車は、個々人の個性が光るわけではないが、ラグビーで言えばスクラムトライに徹するというイメージがあります。8人のフォワードががっちりとスクラムを組んで押し進み、じりじりと相手を下げさせてスクラムのままトライする。ラグビーの王道と言ってもいい。明治大学のラグビーが、伝統的にこのスクラムトライの強みをもっています。逆に、早稲田大学は出来る限り早くスクラムからボールを出し、次々と走り込んでくるバックスにパスを回し、華麗にトライするスタイルです。ソニーがこれに近いイメージでしょうか。

どちらが正しいということではなくて、見る人の好みによります。こんな風に、迷ったら自分の好みで好きな企業を選べばよいと思います。それが楽しみの一つでもあります。もし心配なら、余裕があれば両方の株を買うという選択肢もあります。車なら車庫のスペースが気になるかもしれませんが、株なら両方とも買って勉強するという判断があり得ます。

ソニーは製造業での信用を金融に持ち込み成功した

ソニーグループとトヨタ自動車を比べてみましょう。極端に言えば、トヨタは大きな声で自分の意見を言う人は少なく、お互いに相手の考えを慮りながらトライへ進むというイメージがあります。一方のソニーグループは、トライに行く前に「俺はスクラムで押すのがいいと思う」「いや、今回はバックスに回した方がいいと思う」という具合に意見をぶつけ合います。異なる意見が出ても、いざ実行となれば力を結集するところが特長でしょうか。

ソニーグループはエレクトロニクスを祖業としていましたが、銀行や保険という金融業にも進出して成功しています。これは、祖業であるモノづくりの高い品質からの連想でソニー銀行、ソニー生命が信用を勝ち得た結果に他なりません。さらに、久夛良木健さんという天才が始めたゲーム事業もあります。PlayStationの生みの親である久夛良木さんがソニーを卒業した後も、後輩のエンジニアたちが次々とヒットを飛ばしてきました。ソニーと任天堂の間にマイクロソフトが参入し、世界のマーケットで三強が闘っています。こうして、ゲームは日本の一大輸出産業に育ちました。

キーエンスも、いま最も光っている会社の一つです。顧客が必要としているセンサーや測定器、画像処理について全員が知恵を出し合い、その知恵が付加価値となって業績を伸ばし、日本を代表する大企業に成長しました。年収が高いことでも知られ、資本主義の鑑のような存在です。

時価総額10兆円を超える企業は、それに相応しい売上をつくるために、相応する数の社員がいます。何万人、あるいは何十万人という社員の雇用を守っているということです。日本企業は、それだけの雇用を創り出す技術をもっている。ガソリン車の心臓であるエンジンの技術や、半導体を製造する素材に関する技術も、世界一のシェアがあります。

たとえば、半導体の製造に必要な、高純度が要求されるピュアウォーター(純水)は、俗にテンナインと言われ、9が10個並ぶ(0.9999999999)ほどの純度です。こんな高純度水をつくれる会社は世界に4社だけですが、その4社とも日本の会社です。すごい話だと思います。

また、半導体製造についても、台湾のTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.)の第一・第二工場を熊本に招致しています。日本企業も、北海道の千歳にラピダスという会社を立ち上げ、世界最先端である2ナノ半導体の生産を目指して開発を続けています。ラピダスは、トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンクグループ、キオクシア、三菱UFJ銀行などの出資によって創業されており、技術開発などで困難と紆余曲折が続くでしょうが、きっといつか成功させるだろうと私は考えています。日本人は、世界一我慢強く粘り強い国民性をもっていますから。

時価総額10兆円に成長するまでには、いずれの企業も血のにじむような苦難の歴史を歩み、何冊もの本が書けるはずです。世界中で愛され、世界にとってなくてはならない存在となった企業が多いです。

私の「投資判断の鉄則」を公開すると……

私の投資判断の鉄則として、マーケットシェアが一番であるか否かという視点があります。一番といっても、20%で一番なのではなくて、40%以上で一番であることが重要です。世界中の競合が参入することをあきらめるほど強いか否か。そうなると、当然マーケットは小さくなりますが、それでもいいのです。マーケットが大きくなるとかえってレッドオーシャン市場となり、ここに研究開発費をつぎ込もうとする会社が出てきてしまいますから。

わかりやすくするために、半導体製造装置メーカーのディスコを例として挙げましょう。ディスコは広島県で創業した砥石業を祖とし、長い歳月をかけて、半導体製造の後工程でウェハを薄く切断する技術を磨き上げました。世界で1兆円足らずのマーケットですが、ディスコはこの技術で世界の80%以上のシェアをもっています。2位の2倍以上のシェアをもっていると、どこの業界ではも王様です。これだけのシェアをもっていれば、価格支配権を持ち、利益率も落ちません。つまり絶対に負けないということです。

もしマーケットが30兆円規模であれば、競合が参入しようとするでしょう。しかし、ナンバーワンが1兆円のうち8000億円を占有している市場に、残りの2000億円をとりに来ようという会社は恐らく少ないでしょう。

もう一つの鉄則として、世界ナンバーワンではなくても、他社が真似できない有望な商売をしているか否かがあります。たとえば三菱UFJグループは、世界一安い原料を日本で仕入れて、海外で高く売っています。どういうことでしょうか。日本で超低金利の資金を預金という形で調達し、それを高金利の東南アジアで優良企業に貸し出しているということです。もちろん貸出先の国のカントリーリスクを見極める力は必要ですが、これほど有望な商売はないでしょう。

こんな風に自分なりの分析眼をもっていると、絶対に沈まない超優良企業を選んで投資することができるようになります。皆さんも、自身の力で分析眼を養ってほしいと思います。

(構成/今井道子)