「企業カラー」という言葉があるように、どの会社にも、その会社らしさというものがあります。そして“らしさ”を体現するような社員の中に、その会社“らしくない”人が混じっているものです。もし部下として“らしくない”社員が配属されたら、あなたはどうしますか?
あなたは、その企業「らしい人」?
同じ組織に属していても、その組織に不平不満がある人と、まったくそんなことはない人がいます。不満にもいろいろありますが、その組織にとってあたりまえのことがすんなりと受け入れられない、いわゆる「その組織らしくない人」によるものが、どこでも多かれ少なかれ存在します。
こう書き出すと「何を当たり前のことを書いているのか」とお叱りを受けそうですが、通常、組織を編成する場合、その任務を請け負う人は、なるべくそういうことが起きないような組織作りを心がけます。組織の中でもめ事が起こる、不平不満がたまるという状態に、良いことなど一つもないからです。
採用時には適正検査などを導入することで、個人が持つ資質を懸命に把握しようとしますし、内定までに何度も面接を繰り返すことによって、一緒に働くメンバーが違和感を持たないような人材を選抜します。慎重にフィルタリングすることにより、組織の中でコンフリクト(衝突)が起きないように最大限の配慮を行うのです。
歴史のある企業だと、その企業のカラーが鮮明にあって、社名を言うだけで「あー、確かにあそこの社員って感じがするよ」とか「うーん、あの会社っぽくない人だね、君」と、評価されるくらいです。このように、企業は社員の粒を揃えることに対して意識しています。
そんな中で、あなたが、もし自分の所属する組織に対して違和感を持っているとしたら、その違和感はとても正しいものかもしれない、という話をまずはしたいと思います。
違和感を意図して作る“本当の意図”とは
企業は採用を行う際、募集告知などのプロセスで、「自社で既に働いている人と似たような人が欲しいです。同種の人を求めています」とは決して言いません。むしろ、今までの殻を破ってくれるような、それこそ、異質な人を求めていると公言するはずです。その言葉にうそはありません。
同質性の高い人をそろえるメリットはとても大きく、例えば、似たような考え方を持っている人たち同士だと、価値観の共有などもスピーディーに行え、コミュニケーションにかけるコストが大幅に軽減されます。同じような方向を見て仕事をしてくれるので、仕事自体にムラが生じにくく、均質であればあるほど、アウトプットの質も(高まるかどうかは別にして)そろってきます。
これは企業にとってはとても大きなメリットなのです。しかし、同時に諸刃の剣でもあります。
同質性が高まれば高まるほど、新しい視点でモノを考えたり、まったく異なった発想で仕事を進めたりする、という人が出現しません。俗に言うイノベーションが起きにくい状態が生まれてしまうのです。常に進化し続けることにより、企業としての発展と継続を願う経営者にとって、その状態は決して好ましいものではありません。
したがって、人材採用においては、同質性を重要視するのか、そうではない部分に期待するのか、ある程度の意図を持たせるのが通例です。例えば、新卒採用の場合、自社の社員と似たような人を8割、少し異質な人材を2割などと、意識して比率を設定するようなケースも珍しくありません。
少し勘のいい人ならば、内定式で「えー、こいつってうちの社員っぽくないな」と感じる同期が一定数いることに気付くかもしれません(逆に「自分と似ている人がほとんどいなかった」という人は、“残りの2割”だった可能性が大です)。
違和感を生む人材を採用して失敗する理由
このように、企業が意図して違和感を作り出すケースは珍しいことではありません。しかし、残念なことに、組織を構成する人たちにはその意図を周知しません。それでも、違和感を許容できる組織に“違和感を生む可能性が高い人”を配置して、慎重に育てるということを考えられる企業ならいいのですが、ただ、異質な人を採っただけにとどまる企業も少なくありません。
“違和感を生む可能性が高い人”が周囲に対する違和感を我慢している間はまだしも(これはこれで多大なストレスがかかるため問題ですが)、周囲が違和感に我慢できなくなって、その違和感を生む人を排除しようとし始めると危険です。
周囲とは異なる能力やキャラクター、志向性や価値観を持っているから採用されたはずなのに、結果として理解のない人たちが「周囲ともっと合わせろ、空気を読め」と同調圧力をかけた結果、その人が組織から排除されてしまうという、極めて残念な展開が待っているのです。
もちろん、うまくバランスをとって、周囲との違いを問題視させないという能力を持っている人も少なくないのですが、そもそも周囲と違うある種の個性を持っていることに期待をされる人に、それを求めるのは酷というものです。もし、周囲との違和感を抱き続けていて、それにより仕事がやりにくいならば、あなたはその場所にいるべき人ではないのかもしれません。
部下に違和感を持ってしまった上司がするべきこと
では、配属された部下に対して、上司であるあなたが違和感を持ってしまった場合、どうすればいいでしょうか。まずはその部下の資質をじっくり見極めてみてください。同時に、ヒアリングできるならば、配属を決定した自らの上司や、人事部などその役割を担う部署の担当者に、意図を確認するのがいいでしょう。その違和感を組織として生かすことがミッションならば、あなたは仕事として、違和感を受け入れ、機能させなければならないのです。
部下が組織の色に染まることを期待して、それを押し付ければなんとかなっていた時代は、もはや終わろうとしています。それぞれの資質を把握して、うまく生かす。そのためには、組織の中にある違和感をいち早く察知して、放置しないこと。このように違和感を察せられるというのは、とても大切な能力なのです。
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。