一流の秘書たちが実践している気配りは、ぜひ参考にしたいもの。三越伊勢丹ホールディングス・秘書担当の浅野真由美さんは、年間で2000通ものお礼状を書くという。なぜそんなにもお礼状にこだわるのか? 後編では「お礼状・メール・会食・ボス対策・気遣い」の5つの気配り術をご紹介。
■前編はこちら→http://woman.president.jp/articles/-/1254
【6.お礼状】年間2000通! なぜ全員に出すのか
●三越伊勢丹ホールディングス 秘書室 秘書担当 浅野真由美さん
社長の大西洋は講演や会食などの機会が多く、たくさんの方々とお会いします。そのときご挨拶したできるだけ多くの方に必ずお礼状を出すようにしています。ですから私は少なくとも毎日10通前後はお手紙を作成します。大西は必ずひと言手書きを添えますので、余白を多めにとって印刷し、出社後すぐに書き込めるよう机の上に準備します。
定型文章ではなく思いが相手に伝わるような手紙を書くようにと、大西からは常に言われています。ですので、前日のうちに文面を考えておき、翌朝会食でのエピソードなど大西のフィードバックを受けて修正していきます。
文字も文章も、そのときの心情が出てしまうもの。電話や来客が比較的少ない時間帯に、穏やかな気持ちでお手紙を作成するように心がけています。
●気持ちはすぐに伝える
大西のモットーは「すぐに」。タイミングを逸すると思いをきちんと伝えられず、その思いの意味が変わってしまうこともあるからです。
●ボスの思いを吹き込む
大西の思い(「人」「温かさ」「おもてなしの心」など)をくみ取って表現するため、大西自身が日ごろよく使う言葉を大切にしています。
●一筆箋には季節感を
ひと言メッセージを添えるときの一筆箋は、伊勢丹新宿本店や三越日本橋本店の「店内装飾」を参考に、季節を半歩先取りしたものを選びます。
【7.メール】漢字、日付、曜日を確認して、ユーモアを
●面白法人カヤック 総務 本間利沙さん
メールひとつにも工夫を凝らし、思いを込めるのが私のポリシーです。その結果、「面白法人カヤック」を名乗る会社の秘書として、ユニークなイメージを持っていただければと思っています。
秘書の場合、社長がやりとりしていた相手の連絡を途中から引き継ぎ、メールで訪問や会食の日程を調整する業務が発生します。社長は比較的フランクに相手と接していますが、秘書としては社長のノリまで引き継がず、TPOをわきまえなければなりません。
メールで最も気を付けなければならないのは、相手の名前を間違えないこと。特に「辺」や「斉」など複数の字体があるものは要注意です。日程調整の際は、意外と日付と曜日のずれが発生しやすいので、受信時、送信時のそれぞれでチェックが欠かせません。
●テンプレにひと工夫
来社する人に道順を知らせる際、ちょっとしたユーモアをプラス。「受付は30階、エレベーターで願い事を3回繰り返すと到着します」など。
●返信しやすい内容に
忙しい相手にはイエス、ノーで答えられる質問をするか、選択肢を提示。また、冒頭に箇条書きで要約を書き、相手の読む負担を軽減しています。
●相手のノリに合わせる
漢字とひらがなの使い分けは、相手の文章に合わせて。「宜しく」とと使う相手には「宜しく」、「よろしく」の場合は「よろしく」と返します。
【8.会食】支配人と親しくなっておく
●KDDI 渉外・広報本部 秘書室 渉外グループ マネージャー 上野明子さん
政財官渉外という業務を担当しているため、挨拶や懇親、または交渉を伴うものまで、ほぼ毎日、会食が入っています。
常に心がけているのは、相手を慮(おもんぱか)ること。空調の風向きによってはひざかけを用意したり、海外の方の場合は部屋の絵を好きなものに変えたこともあります。対応を臨機応変にするため、お店の支配人やおかみと親しくなっておくことも大切ですね。
交渉に臨むときも、こちらの要望をただ押しつけるのではなく歩み寄り、寄り添い、よきところに導けるよう意識します。元々人間が好きなので、出会いと学びが多いこの仕事に幸せを感じていますが、秘書時代にも学んだ「相手に寄り添い慮ること」と、「機を見極め、双方が胸襟を開ける時間空間をつくること」……そういうどこか温かくも機敏に人と今を感じとれる「母性ある軍師」を目指しています。
●相手の好みを徹底リサーチ
タバコ・お酒の銘柄まで事前にリサーチするが、先入観にとらわれては逆効果。会話の中で相手を理解し、心地よい空間で信頼を深めます。
●快適な空間をつくる
照明・部屋の温度・窓の位置や椅子の高さ・花瓶と花の種類まで、個室の快適さと、会食の目的、先方の好みをイメージしてつくり上げます。
●時にはサプライズも
鮎や鯛だしを使うこだわりのカレーうどんを食べに行ったり、郷土料理をメニューに入れてもらったり、サプライズプレートを準備することも。
【9.ボス対策】会社のためになることなら、目を見ながら進言
●ライフネット生命保険 企画部マネージャー兼 総務部秘書 川越あゆみさん
社長秘書と企画部を兼務しています。企画部は経営の意思決定を間近に見られる部門。秘書業務でも、ビジネス視点でトップをサポートできるよう努めています。ですから、自分が気になるからというだけで何か進言することはありません。それが本当に会社のためになるのかを、常に自分に問いかけています。
忙しい中で聞き流されないよう、伏線を張ってから伝えるなどの工夫を凝らすこともあります。また秘書をしていると、社員から「社長に伝えたいんだけど」と相談されることも。そんなときも、伏線を張ったうえでタイミングよく直談判できるように計らいます。
大切なのは、進言を通すことではありません。少しでも社長の判断の助けになるのであれば、伝える意味は十分あるのではないかと思っています。
●直接顔を見て進言する
言いにくいことほど、面と向かって伝えることが大切。相手とのやりとりの中で、表現を修正しながらうまく伝えていきます。
●何度か話題に出してから
岩瀬は一つのテーマにのめりこむタイプ。そんなときは、何度か話題に出して、あ、またあの話かと認識できる頃を見計らって切り出します。
●肯定する言葉をはさむ
誰でも、否定だけされると不快なもの。クッション言葉を交えたり、「意図は十分承知していますが」など、理解や共感を示すようにします。
【10.気遣い】待ち伏せ、観察して心理を読む
●サイバーエージェント 役員秘書 長嶋陽子さん
副社長の日高は基本的に明るくて楽しい人ですが、とにかく多忙。動きの速いIT業界で、重要な経営判断を下し続けているので、頭は常にフル回転。日高の負担を少しでも軽減するために心がけているのが、言われる前に動くこと。それにはよく観察することが必要です。
仕事に集中しているときの日高は無表情で無口。それでも丸10年秘書を務めていると、声のトーンなどで今の状態がわかるもの。日高はあまり細かく指示を出すタイプではないので、「これは相当忙しいな」と思ったら、「コーヒーでも飲まれますか?」というように、マメに声がけをするようにしています。かといって、うるさくしてはいけない。常に一歩引いて、でも自分で判断できることは判断して提案する。バランス感覚が求められますね。
●外出の時間を提案
たとえば、携帯ショップに行きたそうだな、と思えば勝手に予定を調整。「2時間空きましたが、携帯ショップに行かれては?」と提案します。
●重要な局面でそばにいる
日高は、特に用がないのに人を呼びつけたりするのは悪いと思うタイプ。込み入った仕事が入っている日はこちらからそばにいるようにします。
●状況・体調を読む
確認や質問はなるべくまとめていっぺんに。まずはライトな質問をぶつけてみて、タイミングが悪そうなら、残りの質問は別の日に後まわしです。