今まで証券業界は労働時間が長く、体力的にも厳しいため、女性が長く働き続けるのは難しいといわれていた。その中で大和証券は、女性が働きやすい会社として、学生からの人気も高まっているという。大和証券の改革はなぜ成功しているのだろうか。

「優秀な契約社員に、『なぜ正社員にならないの?』と聞いたら、彼女が正社員になるための人事システムが、わが社にはなかったんです」

大和証券グループ本社取締役会長の鈴木茂晴氏は、代表取締役社長になった2004年当時を振り返る。

大和証券グループ本社取締役会長・鈴木茂晴氏「女性は戦力になっているのに、評価がともなっていなかった」

安倍政権が「女性活躍推進」を成長戦略として掲げているが、「2030(にいまるさんまる)」という目標達成のために女性管理職にする人材を他社から引き抜いたり、見栄えのいい制度をつくったりする企業も多くみられるなど、女性活躍推進はまだ途上で課題も多い。なかでも、証券業界といえば男女の「職種分離」が強く、長時間のハードワークが特徴でもあり、「男社会」というイメージも定着している。

そんな中、大和証券は安倍政権の取り組み以前から10年以上、女性の活躍を推進しており、現在女性役員7人(グループ連結)、女性支店長比率16%(単体)、女性管理職は262人(グループ連結)と05年時の4倍となっており、ここ10年の新卒採用の約50%が女性である(単体/総合職、エリア総合職合計)。ここまで来ると、女性活躍推進に成功している企業と言っても過言ではないだろう。

大和証券で業界の常識を打ち破る改革を進めてきたのが鈴木氏だった。

社長に就任したばかりの頃、まずは全国の支店を行脚したという。冒頭の話は、行脚中に知ったことだ。この事実に、鈴木氏は打ちのめされた。

「全国に優秀な女性がいっぱいいて、そこで一番頑張っている。しかし成績で見ると『一番』じゃない。女性は戦力になっているのに、評価に反映されていなかったんです」

契約社員が正社員になれないことを知り、アルバイトや派遣社員でも3年働いた人で、支店長からの評価が得られれば社員にするようにした。「やっていく中で、何が重要でどうすれば女性を戦力として生かせるのか、だんだんわかってきたんです」

一般職で入社したのにいつのまにか所長に

鈴木氏の改革はまず支店の女性たちから始まった。01年入社の代々木上原営業所所長・湯浅葉子氏はその転換期を経験している。

代々木上原営業所所長・湯浅葉子氏「どんなに高い目標でも、やるなら一番いい結果を出したい」

何回も個人表彰を受けており、女性営業のトップとして若くして拠点の長を任されるようになった彼女だが、入社当時は一般職だった。

新卒で横須賀支店に配属された彼女は、入社当時は一般職としてリテール(個人向け)営業を行っていた。「数年で結婚して辞める先輩も多かったし、育休をとっても辞めてしまう。自分もなんとなくそういうイメージでいたんです。毎日遅くまで残業して、日々をこなしていくことで精いっぱいでした」

しかし、ちょうどその頃は、鈴木氏が「女性活躍」を強く推し進め始めた時期で、湯浅氏のキャリアは思わぬ方向へ進む。2年目にエリア総合職に転換し、05年に課長代理、さらには、06年に本店営業に異動となった。

当時は「女性が本店営業に来るなんて」と誰もが驚く時代だ。「本店営業の女性は100人の部隊に数人。同等に認めてもらうには結果を出すしかないと思いました」。そして、彼女は実際に成果を挙げていく。

結果を出せば評価につながる、それが鈴木氏の「女性活躍推進」だ。湯浅氏が大きな数字を出せるようになった時期に、今度は法人向け新規開拓の部署への異動を打診される。

「今までの女性のキャリアはリテールで終わるのが普通でした。それが、今度は法人向け新規開拓という、ベテランの男性が任されるような仕事が来た。チャンスだと感じました。これが自分の可能性を広げる大きな転機になったんです」

現在、4人の部下を持つ彼女。今では部下を育てるのがやりがいの一つだ。

女性のキャリアを変えた「職制転向」

大和証券は一般職から総合職へと女性の職制転向を進め、09年以降で、約1000人が職制転向者となっている。しかし、トップダウンの改革には最初は混乱もあった。池田亜美加氏(1999年入社/人事部人事一課次長)は一般職入社で、女性活用のスタート時を覚えている。男女別々の課だったのに、突然資産運用コンサルタントとして男女で同じ研修を受けることになったのだ。

「同期の女性には後ろ向きの人もいました。でも、周りも『チャンスなんだから』と勧めてくれて、やってみたら何とかなったんです」

【写真左】人事部人事一課次長・池田亜美加氏「挑戦することに後ろ向きの人もいましたが、やってみたら何とかなった」【写真右】人事部人事一課課長代理・西山真里氏「女性はお金を預けていただく仕事に向いている」

職制転向も最初は年数十人単位だったのが、100人単位で年々増えてきた。転換した人が活躍し昇進スピードも違うのを見て、「職制転向しそうもない」人も転換するようになっていく。

鈴木氏も当初は「事務の仕事が好きなので、異動させないでください」という直訴の手紙をもらったことがある。

「気持ちはわかるんです。でも時代が変わってきた。昔は現金や株券を店頭で受け渡しする作業があったが、今はキャッシュレスでバックオフィスの仕事が半減しています。すぐに営業をやらなくてもいいから、エリア総合職になりなさいと徐々に進めていった。今支店長をやっている女性も一般職から変わった人たちです」

09年大和証券は、業界の先陣を切って女性役員を一気に4人出したことで有名になった。複数人いっぺんに役員を出したことには意図があった。大和には80年代にも女性支店長がいたが、一人だけだと、何か起きるとすぐに「やっぱり女性はダメだ」と言われた。その轍(てつ)を踏まないように、鈴木氏は役員に昇格する候補が複数そろうまで登用を待ったのだ。女性に活躍してもらうには、丁寧なバックアップ、複数人を一度に登用し、環境を整えることが必要なのだ。鈴木氏は「女性を起用して支店の成績が落ちても支店長の責任にはしない」とコミットしている。女性たちもそんな思いに応える結果を出している。