“女のプロ”川崎貴子さんと“男性学”が専門の田中俊之さんの対談第7回は「婚活」について。男性は自己評価を下げ、女性はむしろ自己評価を上げたほうが上手くマッチングするのでは、という話から、田中さんは「男はかわいそう」な理由を説明します。
女性専門の人材コンサルティング会社ジョヤンテ社長で“女のプロ”の異名を取る川崎貴子さんと、「男性学」を専門とし、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』などの著書がある武蔵大学助教の田中俊之さんの対談連載7回目。職場、結婚、出会いについての話を経て、今回は婚活について話し合います。(本文敬称略)
あなたが思う「普通」は、実は結構理想が高い
――女性側でも、出会うときに「私が選んでいる立場」という意識を持っている人って、結構いるのではないでしょうか? みなさん「普通の人でいい」と言いながら、実は理想が高かった……という話はよくあります。自分が思っている「普通」を、現実に合わせるためには、何をしたらいいのでしょうか。
【ジョヤンテ社長 川崎貴子(以下、川崎)】もう、会ったその日に1日中減点してる、という女性がいました。婚活だと「100人会ったけど、一番最初の人が一番良かった」みたいなことが結構あるんです。先ほどの男性とは逆に、その女性は自己評価が非常に低いんですよ。「自分なんて」とか、「私はそんなもんじゃない」とか本当に思ってるんですね。そうすると「そんな自分とこんなデートしてくれる人なんて、ろくなもんじゃない」っていう発想から入るんです。
たとえば結婚相談所でも「この人があなたに合う人です」と言われた相手に会うと、「わたしのレベルに合う人? きっと、とんでもなく点数の低い男に違いない」みたいな思い込みからスタートして、どんどん減点していくんです。それってとても不幸ですよね。
――婚活していると心が折れるので、ますます自分への点が辛くなる、自己評価が過剰に低くなってしまう、という女性を確かに見かけます。
【川崎】そうなんです。だから、自分という女性性を楽しんで、まず自分に愛情を持って接してほしい。私も結構イケるな、私も割とイイ女だな、そう思えた時点で婚活を始めるといいですね。そうすると、出会う人は、その人のアラ探しではなく、いいところ探しができるから。自分自身をマイナスで見ているうちは、本当に自分にぴったりな人に会っても上手くいかない。逆に見切り発車で出たとしても、さらに減点していくから、うまくいかない気がしますね。
婚活は男性にとって不利?
【武蔵野大学 社会学博士 田中俊之(以下、田中)】あと、正確に情報を把握したほうがいいですね。男の数と女の数って一緒だと思っている人が多いんですよ。「みんなが贅沢を言っているからマッチングが悪いんだ」ということを言う人がいますが、これは大きな間違いなんです。
実は男と女の数は全然違うんですね。出生児男女比と言いますが、女が1に対して男は1.03。100人女が生まれたら、103人の男が生まれているということです。それを現代みたいな医療が発達した社会で、そのままの状態で育っていくと、たとえば25歳から29歳で、男性から女性の数を引くとその差は12万人なんです。ということはですよ、異性愛であるということを仮定するならば、12万人の男性は相手を選ぼうが選ぶまいが余るんです。
だからある意味詐欺なんです、婚活は(笑)。だって頑張っても余る人が12万人いるんですよ。信じられない数だと僕は思うんです。1人や2人だったら「まあ運が悪かったね」で済むかもしれませんが、12万人ですよ? 男の子たちに婚活をプッシュするときに、この客観的な事実を伝えないのは詐欺に近いと思うんですよ。あなたはがんばった結果、余る12万人になるかもしれない。
でもこれは、女性から見れば大変朗報であるはずです。今のろくでもない彼氏と別れても、潜在的に約12万人自分の相手がいるわけじゃないですか。余った中から選んでも、まだ12万人もいるんですよ!(笑) 付き合う相手を選ぶとき、男の数は圧倒的に多いんです。つまり女性は有利なんだ、ということを把握するべきですよ。婚活市場においては。
――しかも男性側からしたら、敵は同世代だけじゃないですからね。若い女の子には上の世代からも来ますから。
【田中】そうですよ。だからもうしょうがないですよ。そう思ったら、女性が焦る理由ってあんまりないんじゃないですか?
――男性は自己評価を下げ、女性はむしろ自己評価を上げたほうが上手くマッチングする、ということでしょうか。
【川崎】そう思うんですけどね。でも自己評価は男性もあったほうがいいんですよ。勘違いでなければ。正しい自己評価は必要です。
男はつらいよ
【田中】でも、ここで急に男性の肩持つんですけど……かわいそうなんですよ、男は。だって子供の頃から、もっと上を目指しなさい、大きな夢を抱きなさいって言われてくるから。そうやって自分を必要以上に大きく見せることに慣れ親しんできちゃったんですよ。
小学校1年生の男の子に「夢は何?」って聞いたとき、「ボク、地方公務員!」なんて言ったら怒られるわけじゃないですか(笑)。でも、新小学校1年生の親に「子どもに就いてほしい職業」を聞くと、1位は公務員なんですよ。でも、子供が口にするのはスポーツ選手。「もっと大きなことを言いなさい」「大きなことをやりなさい」「男の子なんだから」と言って育ててきた挙げ句、自己肯定感が強すぎのモンスターになってしまう。それが今の中年男性だとするならば、彼らだけの責任じゃないんですよね。社会が男に「ビッグたれ」と要求してきたことのツケはありますよね。かといって、「身の丈を見ろ」と幼い頃から教えるのがいいことなのか? とも思うわけですが。
――なるほど……男性のほうが女性より、ハッタリをかますのがうまい人が多いのはなぜだろうと前から不思議に思っていました。そういう育て方にも原因があるのかもしれないですね。「ビッグになれ」と。
【田中】女の子はみんなと仲良くしなさいと「協調」するよう育てられてきて、男の子は「競争」するように育てられてきているんです。だから、その違いは出てしまいますよね。
――「夢を見ろ」と子どもに言いきかせておきながら、実際には親は公務員を望んでいるってちょっとかわいそうですね。だって、どこかで夢がポキッと折れる時がくるということですよね。
【川崎】今、婚活してる女性たちにもその気がありますね。今のアラサー世代の子たちは小さい頃から習い事も当たり前で、専業主婦のお母さんたちに「これから女の子は自分で自分を食べさせないとダメなのよ」「私みたいになっちゃだめよ」と言われて育てられています。それなのに、急に30目前になったら、「いつ結婚するの?」みたいな話をし始められるわけです。これって、「スポーツ選手になれ」って言っていた親が、急に「公務員になりなさい」と言い始めるようなものですよね。さんざん自分は幸せじゃないって言ってた母親が「いやいや、女の幸せはね……」なんて違うことを言ってくるわけですよ。
【田中】言われてみるとまったく同じですね。
――親って残酷ですね。親の期待問題ってあるかもしれないですね。
第1回 結婚を不安視する男、幻想から離れられない女
http://woman.president.jp/articles/-/866
第2回 「結婚はコスパが悪い」という男性が結婚を意識するのはどんなとき?
http://woman.president.jp/articles/-/893
第3回 上司をおだてることは、会社の不利益である
http://woman.president.jp/articles/-/896
第4回 女性たちよ、管理職になれ!
http://woman.president.jp/articles/-/903
第5回 結婚したいのにできない人に必要なこと
http://woman.president.jp/articles/-/925
第6回 「減点法」コミュニケーションの行く先は、破局しかない
http://woman.president.jp/articles/-/926
第7回 男はつらいよ~男は「競争」、女は「協調」
http://woman.president.jp/articles/-/927
最終回 「夫が家事を主体的にやってくれない!」となぜ怒ってはいけないのか
http://woman.president.jp/articles/-/928
1997年に女性に特化した人材コンサルティング会社、株式会社ジョヤンテを設立。経営者歴18年。女性の裏と表を知り尽くし、人生相談にのりフォローしてきた女性は1万人以上。プライベートではベンチャー経営者と結婚するも離婚、そして8歳年下のダンサーと2008年に再婚を経験、「女のプロ」の異名を取る。9歳と2歳の娘を持つワーキングマザーでもある。著書に、『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)など。
田中俊之
武蔵大学社会学部助教、博士(社会学)。1975年生まれ。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍中。著書に、『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)など。