“女のプロ”川崎貴子さんと“男性学”が専門の田中俊之さんの対談第6回。最近は恋をしづらくなっている、という話題をきっかけに、男性の自己認識について、そして恋愛や夫婦関係を長く続けるために必要な考え方について話し合います。
女性専門の人材コンサルティング会社ジョヤンテ社長で“女のプロ”の異名を取る川崎貴子さんと、「男性学」を専門とし、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』などの著書がある武蔵大学助教の田中俊之さんの対談連載6回目。「超面食い男の問題点」「若く見られる、と自負する男性はまず若くない」「なぜかとても“上から目線”な夫」など、引き続き「男女の付き合い」について考えます。(本文敬称略)
恋をしづらくなっているのは、面食いが増えているから?
――前回に続き(関連記事:「結婚したいのにできない人に必要なこと」)、結婚したい人、これから結婚する人へのアドバイスをお願いします。「現実を見よ」「自分の欲望をプロファイリングせよ」「男性1人ではなく、2人の年収を合算して考えよ」というお話が出ていました。結婚の前に、そもそも恋愛できない、出会えないという人も増えています。
【ジョヤンテ社長 川崎貴子(以下、川崎)】最近は、恋もしづらくなってるじゃないですか。
【武蔵野大学 社会学博士 田中俊之(以下、田中)】恋、しづらいんですか?
【川崎】恋愛力が低くなっているというか……。特に男性に聞きたいんですけど、私の同級生で今独身の男性の方々って、すごい面食いなんですよ! 超ド級の!
【田中】そうなんですか。困ったものですね(苦笑)
【川崎】私がたまたま取材したり質問を受けたりした人達が、総じてそうなんです。顔のタイプ、スタイルに細かく指定があるんですよ。別に女優クラス、モデルクラスじゃなくても、何かの仕草がかわいいとか、色っぽいとか、そういうところを好きになるものじゃないですか。ある日突然何でも素敵に見える恋愛のまやかしとでもいうか。
【田中】僕は恋愛のことは専門外なので教えていただければ……そうなんですか?
【川崎】実はこれ、今、世界中で問題になっているらしくて。いわゆる広告ポスターとかビデオとかCMとか、美しく修正された女性の映像が世の中にあふれていますよね。それをあまりに男の子たちが見慣れすぎてしまって、生身の女性達の、生身感のよさっていうものを受け入れづらくなっているそうなんです。モデルとか女優クラスの、よっぽどきれいな人でないと好きになれないらしい。世界的に顕著な傾向らしいですが、これは不幸なことだなと思って。
恋に落ちるという素敵なアクシデントが減ってしまう。ポーッとなって、「あ、この人しかいない!」と思って結婚するケースって、いっぱいあるじゃないですか。結婚するには勢いも大事なのに、それがない。デートしながら、相手に「佐々木希と違うな」なんて思われていたとしたら、イヤですよね。
――“上から目線”というかなんというか……そういう自分は佐々木希に釣り合う容姿なのか、という視点はないんですかね。
「若く見られます」と自称する男性が本当に若いことは、まずない
――私も1つ、上から目線の話を思い出しました。先日、結婚して子どもができた後輩と会ったんですが、彼、奥さんについて「自分は我慢してやってる、妥協している」としきりに言うんです。「一瞬、相手がかわいいかなと思って結婚したが、結婚生活はこういうものじゃないはずだ」と思い始めてきた、気になる点、嫌な点がたくさんあって、我慢してると言うんですね。子どもができてみたら、子どもはものすごくかわいい。だけど、奥さんに対しては今も加点法じゃなくて、減点法で考えてしまうと言うんです。「オレは妥協してやってる」と。「オレは京大を出ているし、ルックスもすごくよくはないけれど、悪くはないはず。こんないい夫と付き合っているのに、うちの妻は出来が悪い」といったことを酔っ払って延々話すので、びっくりしてしまいました。
【川崎】捨てられそうな臭いがぷんぷんする!
――いや、むしろ奥さんがあなたを捨てるんじゃないか? と私も思ったんですけれども……。結婚すると、減点法で相手を見てしまいがちなものなのでしょうか?
【田中】今の話は、本当に含蓄のある話ですね。まず彼は、自分のことがよく分かっていないという大変な問題を抱えています。僕もそういう話を聞いたことがあるんですが、学歴は自分で得たものだし客観的な指標なのでまだいいとして、「オレは外見も悪くない」と言う人の外見がよかった試しがないんですよね。この人は何を言っているのかな、と思うことが非常に多くて……。男性って、女性に比べて美意識が低いというか、僕らくらいの世代だと洗顔して顔に化粧水もつけないような人が多いから。
――確かに。あと「若く見られます」って自分で言っている人は、あんまり若くないことが多いですよね。
【田中】そうなんですよ。そういう人に、僕が『<40男>はなぜ嫌われるか』でおすすめしたのは、「同窓会の写真を人に見せてください」という方法です。そのときに、「1人だけ若い人が混じっていますね」と言われるようなら、本当に若いです。
僕もこの間、同窓会の写真を大学生に見せたんです。「見て、違和感がある(くらい若い)人はいる?」と聞いたら「いない」って言うんですよ。でも同窓会の会場では、みんなで「若いね~。変わってないね~」と言いあっているんです。だからズレてるんですよ。すごく若くもなけりゃ、キレイでもかっこよくもないんですよ、客観的に見たら。だからその人は大変だと思います。正確な自己把握ができないってことは、過ちを犯すわけですから。
【川崎】それでよく仕事ができてるなって気がしますよね。
――彼の名誉のために言っておくと、仕事はできる優秀な人なんですけどね……。ただちょっと自己認識が高すぎて、私も聞いていてびっくりしました。
減点法の行きつく先は破局しかない
【田中】長期的にお付き合いする場合に減点法を導入したら、これはもう破局しかないですよね。非常に短い付き合いであれば、減点していってもいいと思うんですよね。学生時代の恋愛とかだったらまだ……。
「思っていたのと違う」と言って減点するということは、思っていた理想の妻がいて、現実がズレたときに減点しているんですよね。こういう発想の人はおかしいと思うんです。繰り返しますけど、思っていたのと違うに決まってるじゃないですか、人間なんて。
これ、自分に当てはめても苦しいですよ。思ってたオレ像と現実のオレがずれたときに、「あ、オレはダメだ」って。ダメだっていうオレがオレなんだから、これを受け入れてあげないとかわいそうですよね。だからやっぱり長期的な人間関係に関しては、加点法がおすすめです、絶対。
【川崎】なるほど。
【田中】だって、思ってたのと違うって楽しいじゃないですか。たとえば、超ハンサムですごいと思ってる彼とレストランに食事に行ったときに、彼がパンを信じられないくらいこぼすとしますね。
シャツが食べてるのかな? と思うくらいパンをこぼすとして……楽しいじゃないですか。あんなに素敵で、会社でもみんながイケメンって言っている彼が、実はこんなにパンをこぼすんだ、これは私しか知らない。そう思いませんか? 「思ってたのと違う」と言って別れてしまったら、その面白さが分からないですよね。
――確かに加点法のお付き合いなら、ハードル低めで結婚しても、その後だんだんと楽しくなりそうです。
【田中】ハードル低めでも高めでも、加点していくわけですから、最初は何でもいいわけです。減点法っていうのは、自分の立ち位置を勘違いしてますよね。なぜ採点する審査員側にオレがいると思ったのか、と。
第1回 結婚を不安視する男、幻想から離れられない女
http://woman.president.jp/articles/-/866
第2回 「結婚はコスパが悪い」という男性が結婚を意識するのはどんなとき?
http://woman.president.jp/articles/-/893
第3回 上司をおだてることは、会社の不利益である
http://woman.president.jp/articles/-/896
第4回 女性たちよ、管理職になれ!
http://woman.president.jp/articles/-/903
第5回 結婚したいのにできない人に必要なこと
http://woman.president.jp/articles/-/925
第6回 「減点法」コミュニケーションの行く先は、破局しかない
http://woman.president.jp/articles/-/926
第7回 男はつらいよ~男は「競争」、女は「協調」
http://woman.president.jp/articles/-/927
最終回 「夫が家事を主体的にやってくれない!」となぜ怒ってはいけないのか
http://woman.president.jp/articles/-/928
1997年に女性に特化した人材コンサルティング会社、株式会社ジョヤンテを設立。経営者歴18年。女性の裏と表を知り尽くし、人生相談にのりフォローしてきた女性は1万人以上。プライベートではベンチャー経営者と結婚するも離婚、そして8歳年下のダンサーと2008年に再婚を経験、「女のプロ」の異名を取る。9歳と2歳の娘を持つワーキングマザーでもある。著書に、『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)など。
田中俊之
武蔵大学社会学部助教、博士(社会学)。1975年生まれ。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍中。著書に、『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)など。