“女のプロ”川崎貴子さんと“男性学”が専門の田中俊之さんの対談第5回は「結婚」について。結婚したいと思う若い男性が減っているのでは? という川崎さんの問いに対する、田中さんの答えは。また「男は家族を養う大黒柱」という意識が強すぎる国は少子化が進む、という指摘も飛び出します。
国勢調査で推移を見ると、年々「未婚率」が上がっていることが分かります。今や40代前半でも、男性の20%以上、女性の12%が独身。昔は結婚することが普通だったのに、なぜ現代は難しいのか。結婚したいのにできないのか、意識が変わったのか。それともそもそも結婚したくない人が増えているのか……? 女性専門の人材コンサルティング会社ジョヤンテ社長で“女のプロ”の異名を取る川崎貴子さんと、「男性学」を専門とし、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』などの著書がある武蔵大学助教の田中俊之さんの対談連載、5回目は「結婚」について考えます。(本文敬称略)
「男性は一家の大黒柱として働くべき」と考えている人は7割
――前回は「男性は正社員として、定年退職までフルタイムで40年働くものだとみな思っている。でもその考え方を変えていかないと」というお話でした(関連記事:女性たちよ、管理職になれ! http://woman.president.jp/articles/-/903)。世間の期待もですが、男性自身も「そういうものだ」と強く思っている人が多いですね。
【ジョヤンテ社長 川崎貴子(以下、川崎)】やっぱり20代、30代の男性の意識は、上の世代とは違うんですか?
【武蔵野大学 社会学博士 田中俊之(以下、田中)】項目によりますね。例えば、20年前に「家族を養い、守るのは男の責任である」ということについて調査すると、ほぼ9割の人たちが「はい」と言ったのです。学歴とか性別とか、世代によって回答に差が見られないというのは、社会調査では珍しいことです。世代を問わず、性別を問わず、強く信じられている観念というものがあるんですね。
20年後の2014年に同じ質問をしたんです。インターネット調査だし、対象回答者も違うのですが。そうすると、今度は7割くらいになってたんですよ。つまり「一家の大黒柱は男だ」という意識は、20年くらいの時を経て崩れてきている。もちろん均等に意識が変わったのではなくて、おそらくそういう意識が崩れてきたのは若い人たち、という面は当然あるでしょう。意識は変わりつつありますが、とはいえ、まだ7割は「男は大黒柱として家族を養い、守るべき」だと思っているとも言えます。
【川崎】この前、白河桃子さんのコラムを読んでいたら、「女性は仕事ができなくていい、男性は一家を養いなさい」という幻想のある国ほど少子化になるという内容でした(関連記事:「良妻賢母が好きな国はなぜ出生率が低いか」)。その国とは日本、ドイツ、イタリア、韓国らしいんですけど、中でも日本がダントツなんです。
しかもおまけに、そういう国にはセットで“良妻賢母願望”が国民全体にあるそうです。「女性が一歩下がって男性を立てて、男性がひとりで働いて家族を養って……」という考え方が、より少子化を進めている。この現実がちゃんと数字になって出ていると知って、驚きました。
――男性が大黒柱、女性は良妻賢母で男性を立てる……という昔ながらの社会のほうが、子どもが増えると考える人も多そうです。
【川崎】そうですよね。私も逆だと思ってたんですよ。私は団塊ジュニアで、今43歳なんですが、私たちが子どものころ、みんな親はサラリーマンと専業主婦でした。それで子どもが増えていた世代ですから……。「男は大黒柱、女は良妻賢母」のほうが子どもが増えるかと思ったら、実は現代社会においては違っていた。
男性は(出産などの)リミットがないわけですが、何をフックにして、転職したり、結婚したりするのでしょう? 同世代とかその上の男性の感性はなんとなく分かるのですが、20代、30代の男性たちはもっと違う感性を持っているのではないか、という疑問がずっとあったんですね。
若い人たちは結婚したいと思っている
【田中】結婚に関しては、若い人たちは大人が思っているよりも「したい」と思っているんです。大学生を対象に調査すると、ほとんどの学生たちは結婚したいと思っていることが分かりました。もう少し上の世代の男性も同様です。今の話を展開して考えると「結婚はしたいけれど、昔ながらの性別分業型の結婚をしたいと思うと不可能だ」ということですね。つまり、「自分が一家の大黒柱になれるくらいの年収になったら結婚しよう」と思っていても、なかなかそうはならないから結婚できない。女性も「そういう男性が現れたら結婚しよう」と思っているが、現れない。だから結婚できない……そういうことではないでしょうか。
ただ難しいのは、「関心がない」という人が確かに一定数いるのは事実なんです、恋愛にしても結婚にしても。それはちょっと昔とは違いますよね。
【川崎】それはやっぱり、結婚するより楽しいものがいっぱいあるからですか?
【田中】どうでしょうね? 一概には言えないんですけど、誰もが結婚していた時代のほうが少しおかしかったのかもしれない。「恋愛してないと変だ」とか「結婚していないと変だ」という“規範”が緩んだこと自体は、いいことなのかもしれません。結婚した結果として、みんなが幸せになっているわけではないですから。結婚してもうまくいっていない方や、もう離婚されている方もいますしね。
【川崎】私は、結婚したいのにできない人たちはもったいないなと思うんですよね。なんとかしたいなと思っちゃうんです。
【田中】そうです。そこが問題なんです。
結婚したいのにできない男女へのアドバイス
――結婚したいけどできない男女それぞれに、アドバイスはありますか。
【川崎】私が主宰している婚活の勉強会でよく言ってるんですが、見えてないんですよ。実は周りにいい人、合う人がいるのに。素敵なところでプロポーズしてくれる年収600万以上の王子さまみたいな人を求めている、みたいな女性が多い。ある30代の女性は、高級なレストランとか、素敵なデートを熟知していて、エスコートしてくれて、おごってくれる人がいいというんですね。ただし、おじさんやバツイチは嫌だと。ただ、そんな年季の入ったバブル紳士は50過ぎてないと無理じゃないですか。アラサ―辺りの男性でそんなことが自然にできるのは、東京都内に2人もいないですよ!(一同爆笑)
――都内に2人かどうかはともかく、まあ、若いのに年収が高くて遊びもいろいろ知っていて、という男性はそうそういないですよね。しかもそれで自分を好きになってくれる人と出会うなんて、ユニコーンを探すようなものかも。
【川崎】まずいないでしょう? そんなこと言っていたら、とても結婚できないんです。これはつまり、自分の欲望のプロファイリングができてないということです。本当はどういう結婚生活を送りたいのか、そこを具体的に落とし込んでいないから、男性像が見えないんですね。雑誌とか、少女漫画を見て、砂糖菓子みたいなイメージをふわ~っと持っているだけ。
それをヒアリングして落とし込んでいくと、年に1回くらいは2人で海外旅行に行く生活がしたい、子どもはすごい進学塾に入れなくてもいいけど、自分がピアノを習ってたから、そういう習い事は週に2回くらいはやらせてあげたい……といった感じで、具体的な希望がどんどん出てくるんです。そうしたら「あなたは年収400万円だよね。男性の年収が450万円なら、2人で850万円世帯だからその希望は十分かなえられるよね」という話をしていくわけです。すみません、いつもお金の話をして(笑)。
【田中】お金の話は重要ですよ。男性1人の収入じゃなくて、2人で足したらいくらになるか、そう考えればいい。このことに、もっとみんな気づくといいと思います。
相手に条件をいっぱい付ける人は多いですけど、それって無駄な気がしてます。なぜなら、仮に条件に合った人を見つけられたとしても、絶対「思っていたのと違う!」となるから。自分が思うものと一致する人じゃないとイヤだ、という人は、なにかと生きづらいと思うんですよね。結婚だけじゃないです。会社に入っても「こんなの、私がやりたかったことと違う」とか、付きあっても「思っていたのと違う」ということにきっとなります。
さきほどから何回も「現実を見たほうがいいんじゃないですか」というアドバイスが出てきていますが、そもそも「思っていたのと違う」に決まっているんです。仕事にせよ、恋愛にせよ、頭のなかのイメージ通りに進むほうが怖いですよ。ありえない。だから、あらかじめ条件を設定して、それに当てはめて現実を見ようとする人って、生きづらいんじゃないかな、と僕は思います。
第1回 結婚を不安視する男、幻想から離れられない女
http://woman.president.jp/articles/-/866
第2回 「結婚はコスパが悪い」という男性が結婚を意識するのはどんなとき?
http://woman.president.jp/articles/-/893
第3回 上司をおだてることは、会社の不利益である
http://woman.president.jp/articles/-/896
第4回 女性たちよ、管理職になれ!
http://woman.president.jp/articles/-/903
第5回 結婚したいのにできない人に必要なこと
http://woman.president.jp/articles/-/925
第6回 「減点法」コミュニケーションの行く先は、破局しかない
http://woman.president.jp/articles/-/926
第7回 男はつらいよ~男は「競争」、女は「協調」
http://woman.president.jp/articles/-/927
最終回 「夫が家事を主体的にやってくれない!」となぜ怒ってはいけないのか
http://woman.president.jp/articles/-/928
1997年に女性に特化した人材コンサルティング会社、株式会社ジョヤンテを設立。経営者歴18年。女性の裏と表を知り尽くし、人生相談にのりフォローしてきた女性は1万人以上。プライベートではベンチャー経営者と結婚するも離婚、そして8歳年下のダンサーと2008年に再婚を経験、「女のプロ」の異名を取る。9歳と2歳の娘を持つワーキングマザーでもある。著書に、『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)など。
田中俊之
武蔵大学社会学部助教、博士(社会学)。1975年生まれ。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍中。著書に、『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)など。