“女のプロ”川崎貴子さんと“男性学”が専門の田中俊之さんの対談第2回。「なぜ若い男は結婚したがらないのか」「自分よりデキる女と付き合うと、ダメになる男がいるのはなぜか」「女が下手に出ておけばいい問題」「これを言うとモテる『さしすせそ』」などについて話し合います。

仕事、恋愛、結婚、出産、育児――働く女性にとっていずれも大きなテーマです。どうすれば私たちは幸せに生きられるのか? 女性専門の人材コンサルティング会社ジョヤンテ社長で”女のプロ”の異名を取る川崎貴子さんと、「男性学」を専門とし、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』などの著書がある武蔵大学助教の田中俊之さんの対談を掲載します。(本文敬称略)

「結婚ってコスパが悪いですよね」

――前回、「プロポーズは男からすべき」と若い人まで思い込んでいるのはおかしい、どちらからしたっていいじゃないか、という話がありました(参考記事:結婚を不安視する男、幻想から離れられない女)。また一方で、女性がプロポーズにロマンチックな期待をしすぎなのではないかという話も。もう一つ、結婚したがらないというか、結婚することの意味を見いだせない男性も増えているようです。

【ジョヤンテ社長 川崎貴子(以下、川崎)】仕事で、結婚したくない若い男性たちのヒアリングをしているんです。そうすると「結婚ってコスパが悪いですよね」とか、「今の時代に男性が結婚するメリットを教えてください」といったことをすごく言われるんです。要は、コンビニの出現で食事に困らないとか、女性も社会進出して経済的に自立した人が増えるなど、男女ともに結婚が“生活必需品”じゃなくなったじゃないですか。男子自身も1人暮らしが快適だから、結婚するということが合理的じゃないわけですよ。それなのになぜ、自分が全責任を持って結婚しなきゃいけないの? と。男性側からすると「プロポーズってそういうこと」と思っているわけですよね。

ジョヤンテ社長 川崎貴子さん

女性側は「別に私も働くし、子どもを産んでも産休をとってすぐに復帰するし」なんて思っていても、それを相手に言わない。しかも「彼からプロポーズしてほしい」なんて期待している。受け身の姿勢だから、進むものも進まないんですよ。だからもっとファイナンシャルプランナー並みに説明したほうがいいよって話をしてるんですけど。

――女性から男性に、もっと説明せよと。「私と結婚すると、こういうメリットがあるよ」という話をしなさいということですか?

【川崎】メリットというよりは、「こうやったら結婚できるよね」とか、「こうして何歳までに300万貯めて、妊娠したら1カ月産休を取るから、これくらいあれば大丈夫だよね、結婚資金なんてこれくらいでいいよね、でも新婚旅行は○○へ行かない?」みたいな具体的な話です。もうロマンティック度外視で。

――男性を待つのではなく、むしろ女性側でプランをたててプレゼンしなさい、ということですね。

【川崎】男性が結婚に対してものすごく不安に思っている、という現実を、もっと女性に教えたほうがいいと思うんですよね。ATM代わりにされるんじゃないかとか、突然仕事を辞めて専業主婦になるって言い出すんじゃないかとか……若い男の子たち、全方位で結婚に対してビクビクしてるなって思うんです。

女の年収が上でもいい。大事なのは「合算した収入」

――田中さん、実際問題としてどうなんですか。男性側では、例えば女性からプロポーズされたらイヤなものなんですか。付き合ってくださいと女性から言われるのはどうなのでしょう。

【武蔵野大学 社会学博士 田中俊之(以下、田中)】今は過渡期だと思うんです。今から20年くらい前の若者だったら、年収でも学歴でも身長でも、なんでも妻のほうが上なのはイヤだ、という人は結構いたでしょう。でも今は過渡期だから、両方いるんです。つまり「妻のほうが年収が上だったらどう?」って聞いたら、「やっぱりそんなのイヤですよ」という子もいれば、新しい流れとして大変それはラッキーである、と考える子もいる。これって、非常に現実的な判断ができていていいなと思うんですよね。だって重要なのは、世帯としていくらお金があるかということなわけで、夫と妻とどちらが上だろうが下だろうが関係ないんですから。

【川崎】そうなんです! それが重要なんですよ。

【田中】ただ、全員がそう思えるようになるかというと、やっぱり難しいのは難しいですよね。「男のほうが上じゃないと」という世間のイメージもあるし、それを強く内面化している人であれば、やはりそれはNOって思ってしまうかもしれないし。でも、川崎さんとぼくが目指しているところは、非常に似てるなと思いました。ありもしないイメージに振り回されてると、肝心な部分がゆがんでしまう。しっかり現実を見た方がいいと思いますよ。

若い男性が結婚を恐れる理由

武蔵大学助教 田中俊之さん

【田中】で、結婚について言えば、メディアが悪いんですよ。特に結婚情報誌が悪い。「平均でいくらかかりますか?」って挙式費用や指輪を足していくとね、600万円から700万円かかるんですよ。それをさっき川崎さんがおっしゃられたように「もしかしたらぼくが全部負担しなくちゃいけないかもしれない」と思ったら、それは20代の男性は「そんなの無理!」って思いますよ。

仮に30代で500万円ほど貯金があったとしても、それがゼロになると思ったら、とてもやっていられないでしょう。そもそも500万、600万なんてそんな貯金がない人もいっぱいいるはずです。だからそういう情報に流されて、「あぁ、やっぱり結婚式ってこれくらいやんなきゃいけないのかな」とか「こうしないといけないんじゃないか」という考え方をするよりも、自分たちがどうしたいのかということをしっかり考えるほうがいい。それができれば、あまり振り回されずに済むんじゃないかと思います。

現実を見ることと、自分がどうしたいのかを考えること、この2つが非常に大事かなと思います。結婚式くらいしないと親ががっかりするじゃないかとか、メンツが立たないんじゃないかとか、そういうことはあんまり考える必要はないんです。あくまで自分たちがどうするか、どうしたいか、それをしっかり認識して行動していけるということが大事だとぼくは思いますね。

自分よりデキる女と付き合うと、ダメになる男の謎を解く

――先ほど、「妻の方がなんでも上で、まったく構わないですよ」という男性が出てきています、という話がありました。その反面、“学歴も収入も自分より上”という女性と付き合った男性が、だんだんだらしなくなったり、会社を辞めてしまったりとダメになっていくのも結構見たことがあります。なぜそうなってしまうのでしょうか?

【川崎】確かにそうですね。私の先輩たちでも、夫がどんどんキャリアダウンしていくというキャリアウーマンはいっぱいいました。

愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』川崎貴子(KKベストセラーズ)

【田中】仕事以外のところにパラメーターを割り振ろうとした人が、仕事中心の価値観の人からみるとダメになったように見えるだけ、というのではなくて? 男性が会社を辞めることがダメ、というのはおかしいですよね。

【川崎】そのもう1つ向こう側があるんですよ。女性だと専業主婦になって家のことをがんばったりするんですけど、男性の場合ってキャリアダウンして社会から逸脱すると、なぜか急に、いろんなことがダメになっていくんです。例えばギャンブルに手を出したり、アル中になったり、家でゲームばっかりしてる夫になっちゃった、みたいな。そういう相談も非常によく受けるんです。

【田中】今の社会では、男性の評価って仕事で決まるから、(会社を辞めてしまうと)無評価に耐えられないんじゃないのかな。

【川崎】なるほど、そうかもしれないですね。主夫になって一生懸命やる、そっちにちゃんとシフトしてくれたらすごくいいんですけど。そうじゃなくて、急にいろんなことがダメになっていく……それはやっぱり女性が許すからでしょうね。「ダメでもいいよ、許しますよ」って言われたら、どんどんそうなっていってしまうのも人間の常じゃないですかね。

「女が下手に出ておけばいい」問題

――その場合、女性が相手の男性を評価することが大事なんでしょうか。仕事だけじゃなくて、あなたはいいところがあるとか、そういうことを日頃から言ってあげないといけない、ということなのでしょうか。

【川崎】今の若い人達はたぶん事情も変わってきていると思いますが、私たちくらいの世代までは、女性のほうが全部上ってことに対して(女性側に)常に負い目があるんですよ。だから「いいのよ、いいのよあなたは~」という感じで許して甘やかしてしまって、それが男性のために全然なっていない。「最低限これはやってね」「これは許さない」「ずっとかっこいいあなたでいてね」という意思表示を、女性がちゃんとしていないことが問題だと思うんです。

それはきっと、心のどこかで「女性が下にいたほうが、彼のプライドを傷つけないんじゃないか」と変な気の遣い方をしているから。そうやってパートナーをダメな息子みたいにしてしまう、という人たちは私も結構見ました。

【田中】調査で「女性が男性を立てたほうが物事がうまく運ぶことが多い」と質問すると、男女ともに8割くらいYESと答えているんです。今の「プライドを傷つけないよう気を遣った結果夫をダメにする」というだけではなく、そもそも女性が男性を不必要に立てるのがダメだったんじゃないかと思えます。

実際、会社にもおだてたり、ちやほやしたり、褒めそやさないとダメな上司とかいるじゃないですか。だから、仕事を辞めた男性だけがダメになっているわけではなくて、日頃から“女性は男性に対して持ち上げる言葉をかけすぎ”という問題が、ぼくはあると思ってるんですね。

男性に言うとモテる「さしすせそ」

【田中】女性が男性に言うとモテる「さしすせそ」というのがあるんです。「さすが」「知らなかった」「すごい」「先輩だから特別」「そうなんですか」なんですけど、つまりそれは“女性側が馬鹿なふりをするか、相手をすごいと持ち上げておけば、男性とのコミュニケーションは上手くいきますよ”というアドバイスなんですよ。でも実はこれって大問題なんです。

男性と女性の関係が、いつまでも上と下で変わらないからというのもそうですが、もう1つ。男性本人はバカだから気付かないわけです。「すごい」と言われたら、「おれはすごい!」と思い、「さすが」と言われたら「さすがだろ?」と思っている。「知らなかった」って答えたら、「ほら、知らなかっただろ!」と思っちゃうわけです。大抵の男はみんなそう思ってしまう。つまり、転落していった人だけの話じゃない。

【川崎】専業主婦の奥さんの立場になってみたら、おだててでも何でもいいから、働いてくれさえすれば別にいいか、というのが、最後の砦なんでしょうね。夫婦のコミュニケーションはあまりよくないし、夫は子育ても何も気遣ってくれないけど、でも最低働いてくれていればいいや、という気持ち。それすらなくなって、家事もやらなくなって、だんだん転落されたらたまらないぞ、という気持ちがあるから、たぶん夫を褒めそやすのって専業主婦の奥さんのほうがうまいと思うんです。

――妻は仕事をしておらず、夫が外で稼いでお金を持ってくることが大事という家庭なら、そうですね。

【川崎】見えない手でお尻をひっぱたいてるとでも言いましょうか……。でもキャリア女性たちは時間的にもスキル的にもそれができない。だから単にパートナーを甘やかしてしまい、会社に行っているだけで仕事ができない人たちよりも、さらに頑張らない人を作ってしまうのかもしれませんね。

その「さしすせそ」で旦那さんが働いているというのもいいことだとは思いませんが、それで彼女たちが幸せじゃないと思うんだったら、やっぱり大問題だと思いますね。だからコミュニケーションが大事じゃないかと思います。

――さっきの「さしすせそ」って、いわゆる「合コンさしすせそ」とほぼ同じですよね。「女の子がこういう返事をしておけば、男性はいい気分になってくれるよ」という合コンの鉄板ワード。上司部下という関係じゃなくても、女性はついそうしてしまうっていうのは、確かにあるかもしれないですね。同世代同士でも無意識にやってしまう。

【田中】そう。大学生でもそうなんですよ。でも、男女が対等にやっていくなら、そんな必要はないはずですよね。

●“女のプロ”川崎貴子ד男性学”田中俊之 対談記事一覧
第1回 結婚を不安視する男、幻想から離れられない女
http://woman.president.jp/articles/-/866
第2回  「結婚はコスパが悪い」という男性が結婚を意識するのはどんなとき?
http://woman.president.jp/articles/-/893
第3回 上司をおだてることは、会社の不利益である
http://woman.president.jp/articles/-/896
第4回 女性たちよ、管理職になれ!
http://woman.president.jp/articles/-/903
第5回 結婚したいのにできない人に必要なこと
http://woman.president.jp/articles/-/925
第6回 「減点法」コミュニケーションの行く先は、破局しかない
http://woman.president.jp/articles/-/926
第7回 男はつらいよ~男は「競争」、女は「協調」
http://woman.president.jp/articles/-/927
最終回 「夫が家事を主体的にやってくれない!」となぜ怒ってはいけないのか
http://woman.president.jp/articles/-/928
川崎貴子
1997年に女性に特化した人材コンサルティング会社、株式会社ジョヤンテを設立。経営者歴18年。女性の裏と表を知り尽くし、人生相談にのりフォローしてきた女性は1万人以上。プライベートではベンチャー経営者と結婚するも離婚、そして8歳年下のダンサーと2008年に再婚を経験、「女のプロ」の異名を取る。9歳と2歳の娘を持つワーキングマザーでもある。著書に、『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)など。
田中俊之
武蔵大学社会学部助教、博士(社会学)。1975年生まれ。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍中。著書に、『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)など。