恋愛、結婚、出産、育児――働く女性にとって、仕事と同じくらい人生において重要なテーマがこうしたライフイベントです。働き過ぎて出会えない、彼が結婚しようと言ってくれない……と“デキる”女性が悩む一方で、結婚を敬遠する男性も増えているのが現実。男も女も生きやすい世の中をつくるにはどうしたら? ジョヤンテ社長の川崎貴子さんと、武蔵大学助教の田中俊之さんに聞いていきます。
働く女性の人生設計には、仕事に加えて、ライフイベントを考慮することが欠かせません。結婚、出産、育児……「家庭」の責任を負いつつ、男性と同じように働き、結果を出すことを求められる女性ならではのつらさは、PRESIDENT WOMAN Online読者の皆さんはよくご存じだと思います。
一方男性たちも、女性とは違う苦しさ、息苦しさを背負っています。いい大学を出て就職し、出世して定年まで勤め上げ……という“一本道”の人生を求められ、そこから脱落することが許されない、選択肢がないゆえのつらさは女性には実感しづらいものがあります。結婚したくても相手がいない、貯金がなければプロポーズもできない。結婚して子どもができれば「イクメン」であることを求められる……。
生き方、働き方が急激に変化し多様化する中で、古い仕組みとのはざまで男も女も悩んでいる現代日本。どうすれば私たちは幸せに生きられるのか? 女性専門の人材コンサルティング会社ジョヤンテ社長で”女のプロ”の異名を取る川崎貴子さんと、「男性学」を専門とし、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』などの著書がある武蔵大学助教の田中俊之さんに聞いていきます。(本文敬称略)
40男は嫌われる?
――田中さんも川崎さんも、新刊を出されたばかりですよね。まずは田中さんの著書をご紹介いただけますでしょうか。
【武蔵野大学 社会学博士 田中俊之(以下、田中)】『<40男>はなぜ嫌われるか』という本なのですが、中年の男性が、現実の認識とイメージのギャップが広がり過ぎてしまっているという問題を指摘した本です。仕事以外の価値の軸を持たずに仕事中心に20年生きてしまうと、いろいろな面でズレちゃうんじゃないですか、と。
たとえば「スーツは新調しても、私服がない」という40歳くらいの男性は結構います。私服がないってことは、普段、週末に家族で出かけたり、友達と出かけたりしないからないのでしょうし。あとは友達がいないとか。中高年の方に聞くと、結構「友達なんて要らない」っていう人も多いんですが、友達がいないことのまずさがうまく認識できていないんですね。あとは「若い女性にまだモテたい」とか……あなたはこうズレちゃってますよ、ということを優しく教えてあげて、反省を促すという本です。
――もうちょっと上の世代だと、月曜日から日曜日まで毎日会社のために生きていて、プライベートなんて事実上なかったから、私服も要らなかったし、友達もいなかったのだろうと思うんですよね。でももう、そんな時代ではない。「男性中心の組織の中でどう働いたらいいだろう?」と思っている女性と、上の世代の価値観とズレてきてしまっている男性って、実は悩みの本質は同じではないのかな、という気がしています。
【ジョヤンテ社長 川崎貴子(以下、川崎)】私、実はとあるメーカーで中高年男性向けにブログを書いてるんですが、まさにそのことを書いたんです。それを正せない40代は、やがてベビーカーや近所の子供たちの声に怒り狂って、どこのコミュニティにも入れない、イライラじじいになるぞ! 奥さんが死んだら早死にしてしまうぞ! って。そしたら何名かの男性からヒステリックなクレームが来ました。そのまま掲載してますけど(笑)。
【田中】なんでしょう、怒られる理由が分からないですね…… だって事実だし。たぶん困るのはご本人たちだから、教えたほうがいいと思うんですよ。そういうことがすごく必要。本にも書いたんですが、ぼくは定年退職者のインタビューをしてるんです。行くところがないとか、やることがないとか、当然友達もなければ、趣味もない。定年退職して仕事がなくなったら、今40歳くらいの男性も将来そうなるに決まってますから、仕事中心の生活を見直してほしいなと思います。
――40歳くらいというと、昭和なおじさん的価値観と、イマドキの若者の価値観とのちょうど間くらいの世代ということになりますね。それだけに悩みは多いと思うのですが。
【田中】そうですよね。だってフルタイムで働いてくださいというプレッシャーは変わらないけれど、加えて育児もしてください、ということですから。無視してる人のほうが楽ですよね。やっぱり。
結婚したい女子のために、川崎さんがハンティング術を指南
――川崎さんの新刊は『結婚したい女子のためのハンティング・レッスン』。非常に刺激的なタイトルです。
【川崎】今、本業ではジョヤンテという会社を通じて、女性の企業における活躍推進のコンサルティング業をやってるんですが、同時にライフワークとして「魔女のサバト」という婚活の勉強会をやっています。もう4期生がスタートしてる段階なんですね。
女性のキャリアカウンセリングをやっていると、結果的にプライベートのビジョンも聞かなきゃいけなくなるんですね。来年もしかしたら結婚する人に、既婚女性のモデルケースが少ない企業を紹介してしまうと大変なことになりますし。で、話を聞いていると、結局、悩み相談になってしまうんです。
19年間、そうやって女性たちのキャリアと結婚の悩みを聞き続けてきました。その中の恋愛や結婚の部分を抽出して、アラサーの女性たち向けに「ロマンティックなプロポーズなんて待っているんじゃありません!」とか、「こうやって男性を見つけて、こうやって自分のビジョンとすりあわせをして、こうやってコミュニケーションして、自分の思い描く自分の人生に、男性達を巻き込んでいけ!」って煽っている本です。
プロポーズは男性からしなくてはいけないもの?
――「ロマンティックなプロポーズなんて待っているんじゃありません!」というのは面白いですね。普段男女平等というか、男も女も対等に暮らしているのに、ある日突然プロポーズするときだけ男らしくなれって言われても、男性も困るのかもしれません。
【田中】そうですね。今の川崎さんのお話はとってもいいなと思います。ぼくも『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』という本に書いたんですが、大学生に調査すると、まだまだプロポーズや告白は男からするべきだと考えている人が多いんです。
――今の大学生でもそうなんですか。
【田中】はい。男女ともに8割が「告白は男からするべき」だと思っていて、プロポーズとなると9割くらいの人たちが、男がするべきと思ってるんです。
ここから何が言えるかというと、結局「重大な決断は男性がすることが求められている」ということなんです。“女性はリードされる側で、男性がリードする側”という構図が、今の若い子たちにも色濃くあるわけですよ。それが良いとなると、特に仕事の場において不利になりますよね。女性はサポート的な役割をしなければいけないとか、男性を盛り立てる役割しかできない、ということになっていってしまうので。告白やプロポーズといった場合は恋愛の話ですけど、恋愛に限らず、さまざまな場面で「自分が主体的になる」ということを女性に勧めるのは、非常に重要なことなんじゃないかなと思います。
【川崎】そうなんですよね。それがすべての生き方に出ちゃうと思うんです。(相談に来る女の子たちは)みんなかわいいし、仕事もがんばってるし、いい彼氏がいるのに、なぜかそういうところだけは預けてしまう? というもったいなさがあって。「どっちがプロポーズしてもいいんだよ、どっちが告白してもいいんだよ、その後幸せならいいでしょ?」と私は思うんですが。
【川崎】もう一つは、ロマンティックな幻想もあると思うんですよね。例えばSNSとかで「こんなプロポーズをしてもらいました!」といった投稿を見て、「あの人がディズニーランドでやってくれたんだったら、私の彼は海辺くらいでやってくれるかもしれない」みたいな。話を聞いていると、そういう無駄なロマンティック幻想が、彼女たちの人生を足踏みさせてるということが多いんですね。
――なるほど、“ロマンティックなプロポーズ”への幻想を女性が持っている、と。
【川崎】 プロポーズは男女どっちからしたっていいじゃないですか。結婚するって決まってから、新婚旅行でロマンティックをし倒せばいいだけの話なんです。サンセットを見ながらうっとり、とかね。
第1回 結婚を不安視する男、幻想から離れられない女
http://woman.president.jp/articles/-/866
第2回 「結婚はコスパが悪い」という男性が結婚を意識するのはどんなとき?
http://woman.president.jp/articles/-/893
第3回 上司をおだてることは、会社の不利益である
http://woman.president.jp/articles/-/896
第4回 女性たちよ、管理職になれ!
http://woman.president.jp/articles/-/903
第5回 結婚したいのにできない人に必要なこと
http://woman.president.jp/articles/-/925
第6回 「減点法」コミュニケーションの行く先は、破局しかない
http://woman.president.jp/articles/-/926
第7回 男はつらいよ~男は「競争」、女は「協調」
http://woman.president.jp/articles/-/927
最終回 「夫が家事を主体的にやってくれない!」となぜ怒ってはいけないのか
http://woman.president.jp/articles/-/928
1997年に女性に特化した人材コンサルティング会社、株式会社ジョヤンテを設立。経営者歴18年。女性の裏と表を知り尽くし、人生相談にのりフォローしてきた女性は1万人以上。プライベートではベンチャー経営者と結婚するも離婚、そして8歳年下のダンサーと2008年に再婚を経験、「女のプロ」の異名を取る。9歳と2歳の娘を持つワーキングマザーでもある。著書に、『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)など。
田中俊之
武蔵大学社会学部助教、博士(社会学)。1975年生まれ。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍中。著書に、『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)など。