先日、JTB田川博己会長を「プレジデントウーマン」12月号の「ダイバーシティの四天王が白熱討論! 日本企業が長時間労働をやめられない本当の理由」で取材させていただきました。JTBのダイバーシティへの道のりを会長にうかがい、今回は高橋広行社長に、ダイバーシティを推進していくフロー、そして女性の活躍を阻む長時間労働を、営業の現場があるこの業界で、どうやって是正していくのか、具体的な取り組みをうかがいました。

【写真左】JTB 高橋広行社長【写真右】白河桃子さん

各社トップがランキングされる!

【白河】経営者の意思と行動ランキングまでありますね。経営者もダイバーシティへの取り組みでランキングされるということでしょうか?

【高橋】社外にはオープンにはしていないのですが、ランキングすることで刺激になる。ランキングが下のほうになっていますと経営者はショックを受けますからね。

【白河】それがトップのコミットメントを促す工夫にもなっているんですね。ダイバーシティに取り組まれたのが2007年からですが、抵抗勢力のようなものはありますか? どこの会社も、ダイバーシティはいいと、女性活躍もしてほしいとおっしゃる。だけど、労働時間に関しては、やっぱり長くやらないとお客さまがいるしねと及び腰になっています。

【高橋】労働時間を短くするという意味では、会社と社員の思いは一致しているんです。労働時間がどんどん伸びると、当然残業手当を会社が出さないといけない。労働の密度、いわゆる生産性も良くありません。会社にとっても社員にとっても長時間労働をどう効率化していくかというのは共通のテーマです。

【白河】それでも自然と長時間になる原因はどこにあるとお考えですか?

【高橋】一つは意識にあると思うんですね。やはり女性、男性にかかわらず、営業が終了してからやらなければならない業務で、固定化しているものがある。仕事のやり方そのものを変えて行かないといけない。掛け声だけでなく、仕事の業務フローそのものを見直しながら、セットで進めていかないといけません。

【白河】意識の改革と業務フローの見直しをセットで進めていくんですね。

【高橋】そこにはITの力も大きいし、それからプラットフォーム、後方の業務を一カ所に集約して一元化してやっていく、そんな後方業務の効率化は大きく残業を削減しています。

課長以上は年8日の連続休暇を徹底

【白河】フローの改善は進んでいる。やはり一番変わりにくいのが意識と思いますが、そこはどうすれば、スピード感が出るのでしょうか?

【高橋】強引ですが、ノー残業デーだと会社が決めることは、どこの会社でも職場でもやっています。残業申請は会社がきちんと管理をして、今日やらなくていいものは残業する必要がないと、申告が出たら管理者がきちんと中身をみて判断することが大事ですね。これはNEW iTM運動、適正な労務管理という運動です。会社をあげて厳密に行っているので、サービス労働はあり得ないというぐらい、きちんとやっています。

JTB 高橋広行社長
1979年日本交通公社(現JTB)入社。広島支店長、マーケティング戦略部長や取締役旅行事業本部長を歴任。2012年常務取締役JTB西日本社長。14年より現職。

システムにおカネをかけている、しかし残業は全然減らないでは、会社としての戦略になりません。

それから有給休暇は完全消化ですね。課長以上は8日間連続休暇を取るような仕組みも設け、必ず対象者全員が取りなさいと徹底しています。上が休まないと下も休めませんので。

【白河】取引先など周囲への働きかけはしていますか?

【高橋】当社だけが残業しませんというのは難しいので、呼びかけ、働きかけはしています。鉄道にしても、飛行機にしても、海外にしても、24時間動いていますから。グローバルに展開していますので、そこは工夫が必要なところです。会議ひとつでも時差があります。

男職場で60人の部下を持つ女性事業部長

【白河】今後女性に期待したいことはなんでしょうか?

白河桃子さん

【高橋】女性社員の多くがカウンターの営業を中心に担当しているんですが、今後、商品企画などの分野にもどんどん出ていってほしいと考えています。旅行商品の決定権はほとんど女性が持っていらっしゃる。女性のニーズをくみ取れる商品づくりというのは、これからますます求められます。また、若い社員を1年間海外のグループ会社でグローバル感覚を身につけてもらう研修を実施しています。3年間で200名を目標にしてます。ここでも女性のほうが優秀で、半分位は女性が選定され、海外に出ています。

【白河】女性の管理職への目標数値をおっしゃっていましたが、そちらの意識はどうでしょうか? 女性は自分から手をあげて管理職にはならないようなところがありますが。

【高橋】やはり女性が上にいくような環境で育ってきていなかったのと、女性自身の意識の問題と両方じゃないでしょうか? 自分からはいかなくても、推されるとやろうと思うように、流れをつくっていかないと駄目ですね。先ほど出てきたJTB首都圏という会社はほとんどを女性が占める会社なんですけれども、別に渉外営業をやる会社でJTBコーポレートセールスという法人営業を中心とする会社では、そこは逆に男性中心で、修学旅行の営業などをするので、どうしても放課後にうかがうなど、長時間労働になる。そこでも、ひとり女性の事業部長が、60人ぐらい部下を従えるような例が出てきています。女性は事業部長になれないという固定観念が、象徴的な存在がいるとどんどん払拭されていくんです。

【白河】女性の昇進への意欲を促すには、環境と意識、両方の働きかけることが大事なんですね。管理職への流れが出てくると、その流れにのろうとする女性も出てくるはずです。今日はお忙しいところありがとうございました。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。1億総活躍会議民間議員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)