先日、JTB田川博己会長を「プレジデントウーマン」12月号の「ダイバーシティの四天王が白熱討論! 日本企業が長時間労働をやめられない本当の理由」で取材させていただきました。JTBのダイバーシティへの道のりを会長にうかがい、今回は高橋広行社長に、ダイバーシティを推進していくフロー、そして女性の活躍を阻む長時間労働を、営業の現場があるこの業界で、どうやって是正していくのか、具体的な取り組みをうかがいました。

【写真左】JTB 高橋広行社長【写真右】白河桃子さん

夫の「転勤対策」と「復帰ライセンス」

【白河】すでに女性の管理職比率が37%というJTBです。2030は達成していますが、どのように女性が活躍しているのでしょうか?

【高橋】女性の比率が6割以上と、非常に女性の比率が高い会社なんです。女性の力をどう引き出すかというのは、最大の経営課題の一つになっています。むしろ、女性の活躍なくして会社の成長はないと思っています。

具体的には、分社化によって誕生した店頭販売事業を中心としたJTB首都圏という会社があります。首都圏に170店舗ぐらい展開していますが、店長の8割以上が女性なんです。

首都圏以外にも旅行のカウンター営業を中心にやっている会社は、既に会社の中枢で女性が頑張っているというのが実態です。ただ、課長職までの比率は高くても、経営陣、役員クラスがまだ育っていない。具体的には来年6月までに経営陣(役員比率)を5%までにするという目標をたてています。

【白河】きちんと目標をたてていらっしゃるんですね。店長というのはだいたい何歳ぐらいでなるものなのでしょうか?

【高橋】30代から40代ですが、30代後半から40代前半が多いですね。

JTB 高橋広行社長
1979年日本交通公社(現JTB)入社。広島支店長、マーケティング戦略部長や取締役旅行事業本部長を歴任。2012年常務取締役JTB西日本社長。14年より現職。

【白河】そうなると、当然出産などのライフイベントと重なる年齢ですね。

【高橋】そうなんです。女性は色々な節目がありますからね。結婚、出産・育児、転勤など、この節目で人財が流出しないように、いかに定着させられるかということが、今大きな課題のひとつです。せっかく何年もかけて育成した社員がやめてしまうことは、会社にとっては大きな財産の喪失に等しい話ですから。

いわゆる産休・育休といった法律的な面は法定以上の制度を設け、環境を整えていますが、次に取り組むべきは夫の転勤という節目です。過去には仕組みもなく、辞めるパターンがほとんどだったのですが、今は夫の転勤先の地域にあるJTBグループの事業会社であらためて再雇用することができます。また一定期間、何らかの理由で仕事を離れる人には、社員として復帰できる「ライセンス」を出している会社もあります。

【白河】そのライセンスを持って退職して、また復帰できるということですね。

【高橋】一定期間職場を離れなければならない。しかし、社員でまた復帰をしたいという希望の社員がいたら、会社としては当然、意欲ある方はまた帰って来てほしい。会社での一定の審査は必要なんですが、ライセンスを出すことで7年間はいつでも復帰できます。

【白河】7年間は素晴らしいですね。海外転勤などにも対応できる。3年というのはきいたことがありますが。

【高橋】育児、介護なども、ある程度猶予期間があれば復帰できるのではないかと思います。また復帰するときの不安を払しょくするためにも、育休復職セミナーも行っています。

4時間からの弾力的な労働時間

【白河】復職後にはどうしても、小さなお子さんがいる方は、時間制約のある社員となります。カウンター営業などお客様がいる営業の課題としては、どういう工夫をされていますか?

白河桃子さん

【高橋】弾力的な労働時間という4時間から10時間の幅の中で、本人の希望も含め、来客波動やお店の戦略、スタッフの休暇取得などの要素を加味したシフトを組むことができる制度も採用しています。在宅勤務も、一部のグループ会社で導入しています。今まで日(または、半日)単位で取っていた年休を、時間単位で取れる時間年休の制度を設けている会社もあります。

【白河】それだとちょっと抜けて子どもの学校の用事などにいけますね。在宅勤務はどのような業務の方が?

【高橋】今導入しているのが、法人営業の会社とシステムの会社、そして、JTBパブリッシングという時刻表やるるぶを発行している出版会社でも今年度トライアルをしています。

【白河】営業はどうでしょう? お客様のいる営業の場合、例えば住宅営業などもそうですが、どうしても長時間労働になりがちで、制約社員が働きにくいという話を聞きます。そのあたりの工夫としては、会長から、カウンター業務のお客様対応以外のバックの仕事をすべて分社化して集中センターに移したと伺いました。また電子カルテの導入で、そのお客様の担当の方がいなくても、誰でも状況がわかるようにしたというのもうかがいました。

【高橋】お客様のデータは在宅では開くことができないようにしているため、在宅勤務も、ある会社では全社員、ある会社では一定の条件を付けて認めているという個別対応になります。いろいろな業種業態の会社があって、その会社に合ったダイバーシティを進めているためです。今、JTBグループは170数社あり、170通りのダイバーシティがあって、それぞれの会社の実態に合わせた形でテーマを決めています。

夜残業から朝型へ

【白河】どうしても長時間労働になりがちな業態についてはどう対処していらっしゃいますか? お店の時間も店舗の場所によってまちまちですよね。

【高橋】一番われわれが懸念している意欲ある女性社員の流出を防止するには、女性の就業を阻害する長時間労働、これを改善していくべきだと各社認識しています。社内アンケートなどで実態を把握していくと、やはり残業という問題が出てくるんですね。

そこで「働き方見直しプロジェクト」を立ち上げて取り組んできました。

その中で一つ出てきているのが、夜残業するのを朝型に変えるという動きです。朝の時間の活用がすべての女性にとって解決になるとは限らないですが、導入してみると組織全体で大きな成果があった。そして、良かったら事例を横展開するようにします。ダイバーシティの取り組みというのは、いろいろやってみて、全社・全グループで共有化するようにしています。年1回、ダイバーシティアワードという表彰を実施しております。全世界170社で集まる経営者会議があって、そこで良い取り組みを表彰しているのですが、情報の共有化の場でもあり、ダイバーシティへの取り組みに対するモチベーションを高める場でもある。「ダイバーシティマガジン」も発行し、これも事例を共有する場にしています。

【白河】立派な冊子ですね。これは年何回出ているのでしょうか?

【高橋】年4回です。各社の取り組みや成功事例を載せていましてね。業種業態が違い、またニーズも違うグループ各社が有りますので、自分のところに合っていると思ったらそれを導入してもらうという仕組みですね。とにかく、トップのコミットが絶対必要ですから。

【白河】そうですね。ダイバーシティの取り組みが進んでいるところは、どこもトップが旗を振っています。

【高橋】マガジンには毎回必ずグループ各社のトップに出てきてもらって、トップが考えるわが社のダイバーシティを語ってもらっています。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。1億総活躍会議民間議員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)