役員になるメリット
昨年、入社21年で執行役員に就任しました。これまでどおり金融関係のお客様を担当する一方で、女性、外国人、中途採用者などがもっと活躍できるようなダイバーシティ推進の責任者も担っています。
1993年に新卒で入社し、3年間はアナリストを務め、3年目にコンサルタントになりました。金融、メーカー、商社、通信などさまざまな業界のコンサルテーションに携わり、7年目でマネジャーに昇進して、07年からその上のマネジメント・ディレクター(MD)を務めました。当時は今ほど女性MDがいなかったので珍しい存在でした。
昨年、会社から突然「執行役員になってほしい」と告げられたときも、心の準備はまったくできていませんでした。反射的に「はい」と答えたものの、「エッ、何の話ですか」という表情だったと思います。
「執行役員になるなら、しっかり責務を果たそう」
そういう気持ちがすぐ生まれてきました。MD、執行役員と昇進してつくづく感じるのは、自分が会社の代表として自信をもってお客様に対応できるというメリットです。マネジャークラスまでは、お客様に提案するときも「私はこうしたいと思っていますが、総合的な会社の判断は確認させてください」と対応に歯切れの悪さが残ってしまいます。ところが、執行役員が「全力で貢献します」と言えば、それは会社の判断と思われますから、もちろん責任も重いですが、躊躇なくその実現に邁進できるのです。
アクセンチュアらしいグローバルな面を活かせるようになったのも昇進するなかで感じた大きな変化です。以前は、アメリカやヨーロッパの拠点と一緒にプロジェクトを立ち上げたいと思っても、「こんなことをお願いしたら、負担をかけて悪いかな」という精神的なハードルがありました。また、立場的にどうしても発言力が弱くなりがちでした。しかし、特にMDになってからはそういったハードルも下がり、私の担当領域を考えれば、相手も依頼の目的が明確になり、グローバルのプロジェクトを仕切りやすくなりました。
最初に辞めるはずが……
実は新入社員の頃、同期の人たちから「一番最初に辞める人」と言われていました(笑)。この会社を選んだ理由も、外資系のほうが内定を出すのが早くて、「せっかく内定をもらったんだから入社しよう。就職活動が終われば、夏休みも楽しめるし」という軽い気持ちだったのも確かです。だから、最初に辞めそうに見えたのでしょうが、逆にほかの人たちが会社を辞めて留学したり、ネットバブルの時代に「一旗揚げる」と言って辞めていったりしたのです。
ネットバブルの頃は、私も他社からいくつかお誘いを受けましたが、ちょうどマネジャーに昇進する前後で、アクセンチュアでの仕事の面白さがだんだんわかってきた時期でした。他社から受けた誘いのなかには、職位が上がり、報酬も上がるというので「ちょっと素敵!」と気持ちが揺れたものはあります。しかしこれまでお付き合いしてきたお客様のことを考えると、転職する気になれませんでした。
マネジャーに昇進したての頃、ある証券会社の合併統合でプロジェクトマネジャーを務めました。私以外はみんな男性の6人チームで、私より1~2歳若い男性と、4~5歳下の若手の男性が4人いました。お客様も総じて男性です。しかしわりとオープンに接してくださり、責任のある仕事を任せてくれました。また、あるお客様は「もし君が女性だからという理由でうちの社員が失礼なことをしたら僕に言ってきなさい」とありがたい配慮の言葉をかけてくれました。
同期の女性たちは、ほぼ同じタイミングでマネジャーに昇進しました。ただ、プロジェクトの規模や業界によっては、すぐプロジェクト・リーダーになれなくて、アシスタント的な役割になってしまう女性もいました。私とは状況が異なるから、当時は仕方ないと思って見ていましたが、彼女たちが「やらせてほしい」と主張したことに、応える上司がいなかったんじゃないかと今は思います。
「恐竜」と呼ばれる女性たち
当社にはグローバル規模で開催されるリーダーシップ・プログラムが定期的にあり、それは私にとって長く働いてこれた理由の1つになったと思います。
なかでも、2012年と13年に参加したプログラムはとても刺激的でした。若手のMDがアクセンチュアのグローバルのCEOと直接話して社内プロジェクトなどを提案できるプログラムです。ヨーロッパ、アメリカ、中東、アフリカなど世界中から50人ほどが集まり、アジア・パシフィック地域からの参加者は少数でした。任期は2年で、年に2回召集され、2~3日かけて集中的に討論します。
私が参加したときは女性リーダーシップ育成のキャンペーンがあって比較的女性の参加者が多く、50人のうち3分の1ほど女性がいました。金髪の人、民族衣装を身につけている人、イスラムのヒジャブを被った人など、見るからに多様な人たちの集まりでした。
自分よりポジションの高いシニアの女性から、長いキャリアを築きながら集中力を切らさない方法や、活力の維持の方法を聞いて感心することが多々ありました。自分たちのことを「ダイナソー(恐竜)」と呼ぶような迫力のある女性の先輩たちと議論すると、私が一生懸命に主張しても、途中から恐竜たちの反論に圧倒され、「はい。そうですね」と丸め込まれてしまいます。「私ってまだまだだな」という気分でしたが、こういう状況ではこう話すと説得力があるのかと大変勉強になりました。