年齢・性別関係なし!58歳で部長になることも

先日、「内定中にできちゃった!『子育て後新卒』という選択」(http://president.jp/articles/-/12084)という記事を書きました。「ユニ・チャームは2015年度の新卒採用から、入社前後に出産する予定の女性の内定者が、入社時期を30歳まで先延ばしできる仕組みを始める」(2014年2月28日読売新聞)という記事をFacebookでシェアしたところ、思わぬ反響があったからです。

「内定中に~」の記事は、今もFacebookやツイッターでシェアをされています。仕事を続ける今の女性にとって「産むタイミング」はもっとも悩ましいこと。大学生のアンケートを見ても「早く結婚し早く産みたい」という希望が「バリキャリで一生働きたい」という意欲の高い女子学生ほど高く、5割ぐらいを占めるのです。

ユニ・チャーム グローバル人事総務本部キャリア開発グループシニアマネージャー 清水直人さん

この仕組みを発表したユニ・チャームはどんな会社なのか? 清水直人さん(グローバル人事総務本部キャリア開発グループシニアマネージャー)にお話をうかがってみました。

「これは取り組みの1つなんです。このニュースが出てから、制度として注目されてしまうのですが……。うちは人材重視の企業。少数精鋭でやっています。さまざまな事情があっても、人物重視で取り組みをやってみて、良いアウトプットが出たら初めて制度になります」

報道を受けて、実際に新卒の学生からの問い合わせがあったそうです。大学生で子育てのため休学中だが、復学のめどもたっているという学生さんでした。今の状況だと「自分の道は限られている」と思ったときに、そのニュースを見たそうです。

「うちは子どもがいても全く不利にはなりません。老若男女、性別年齢に関わらず全員が働く。58歳で部長になることもあります。子どもがいる人ももちろん昇格できます」

CMのイメージで志望するのはやめるべし

ユニ・チャームの主力商品は、生理用品、オムツ(子ども用、大人用)からペットケア製品までと、あらゆる年齢層のニーズに応えています。

「赤ちゃん、女性、高齢者がお客様。多様性ある人材が求められるということです。従業員は工場も含めて約3000人。全体の男女比率は8:2。販売は男性が多いが、開発は男女比率5:5で女性も多い」

女子学生は自分が最終ユーザーになる商品を扱う会社を志望する人が多い。商品に思い入れがあるから強みを発揮できる部分もあります。「海外で初めて日本の生理用品のすばらしさに気がつきました」と私が言うと、「応募の動機もそういう人が多いんです」と清水さん。

「CMのワクワクイメージのまま志望してくる人がいたら、やめた方がいいかもしれません。先輩社員も学生たちに対して必ず『大変だよ』と言います。うちは結構厳しいんです。そして採用時にそのことを隠したりしません」

ただ、女性に期待しているというメッセージを常に発信していると清水さんは言います。これは「女性だから」というわけではなく、性別に関わらず優れた人材には期待を寄せる。そのときの「良い人材」という評価の根拠を聞いてみました。

「うちはビジネスモデルをいかにちゃんとまわしていくか、そこが一番の判断基準です」

ユニ・チャームは10年前に導入したSAPS経営モデルという手法を使っています。HPには「ユニ・チャームでは社員が成長するしないは優れた能力の有無ではなく、小さな習慣の差にあると考えており、『行動習慣』と『思考習慣』を身につけているか否かだと考えています。「やってみよう!」という気持ちになること、そしてそれを愚直に「取り組み続ける」ということです。これらを身につけるための仕組みを「SAPS経営モデル」というユニ・チャーム独自の経営手法で運用しています」とあります。(http://www.unicharm.co.jp/saiyo/about_saps.html

働き方を見える化する特製手帳

写真を拡大
ユニ・チャームの社員全員がもつ手帳

「毎週、次の週はこういう働き方をしますという『行動計画』を作って、PC上と紙で、みなで共有します。時短やフレックス社員の働きも、こういう形で見える化できます」

そのための独自の手帳を見せてもらって驚きました。会社の中期計画から、個人の1週間まで、きれいにブレイクダウンされた行動計画がびっしりと書いてあります。

社是→経営目標→年間目標→半期目標→月次目標→週次目標と落とし込んでいくモデルです。

「毎週月曜日には対面で上司からの修正、グループでの修正が入ります。みんなでアドバイスを出しあいながら、ムダな作業の洗い出しもできます」

しかし子どもを持つワーキングマザーには、突然の休みや遅刻もあるはず……。行動計画通りにいかない場合はどうなるのでしょう?

「それは修正すればいいんです。(行動計画を)作る意味は変更の可能性を洗い出すためでもあります。計画は変更していくのが当たり前なんです」

例えば時短社員がチームにいる場合など、メンバーの働き方が多様になればなるほど、チームで仕事内容を把握しておくことの意味は大きくなる。

ユニ・チャームでも、「正直、時短の期間はなるべく短くしてほしい。時短をとる人が5割、とらない人が5割程度ですが、現場は育休者と時短の穴埋めで限界に近いという声もあります。でも、そこをなんとか『頼むよ』とまわしています」(清水さん)という状況。

チーム全員で、だれがいつまでにどのように動くと決まっていたら、修正や変更もやりやすい。厳しいようで、逆に外資系などに比べて「Job descriptionが曖昧」といわれる日本的なビジネス慣習よりも、ワーキングマザーなど短時間で集中したい人にはやりやすいかもしれません。さらに、人のやっている仕事が見えないと「あの人は時短で早く帰っていて、ずるい」と感情的な評価にもなりがちですが、そうした課題も解決できます。

Work is Life/Life is Workという考え方

表を拡大
データで見るユニ・チャーム

「プロのワーキングウーマンとして仕事も人生もどちらも楽しんでほしい。ワーキングマザーで時短やフレックスの社員は集中力がありますね。入社したらすぐに10年のキャリアプランを作るのですが、女性の場合、結婚や出産の予定も書いてありますよ。もちろん修正は当たり前です」

話を聞いて思ったのは、社員に求めるものが非常に明確だということです。それはトップから発信されるメッセージの頻度でもわかります。

「トップからの発信力がすごいんです。毎月、毎週、毎日全社員へのメッセージがあります。全社員への誕生日メール、社内報、経営者ブログなどで発信しています」

女性にどう活躍してもらうか。活躍してもらいたい思いはあるが、「トップも女性へのメッセージには悩んでいます」と清水さん。執行役員クラスには女性がいるが、まだ女性の管理職比率は多くありません。

「意図的に女性リーダーを育てようとはしています。女性は早期育成でリーダー的な役割を早くに担ってもらう。それは機械的に制度でやるのではなくあくまで人を見て、登る坂の角度を大きくしてもらうのです。しかし××%にしようという比率を重視する思考はありません」

ユニ・チャームは、全員が生産性高く働くことが求められている職場だと思います。そのやり方を全員に共有できるよう、落とし込む仕組みもあります。過去の成功例も失敗例も「全部手帳にある」ということに驚きました。

厳しいけれど、透明性と公平性がある

決して「女性にだけ優しい」会社ではないユニ・チャーム。しかし、評価や求められることがクリアで、大変な分、お給料も高い。女性の活躍見える化サイトで見ても、残業時間は多く、有給消化率は低いが、平均給与が業界で群を抜いて高いという特徴があります。

世界80カ国に進出し、アジアに拠点も多い。サウジアラビアには「女性だけの工場」を創り、今年の日経ソーシャルイニシアチブ大賞に選出されています。私は表彰式の現場にいたのですが、社長の高原豪久さんが受賞のスピーチで「最初はサウジアラビア政府の圧力で、日本人社員のビザの発給枠を増やしてもらうために作ったのですが」と正直に話され、飾らない態度に驚きました。

イスラムの戒律が厳しいサウジアラビアでは、女性は黒いベールで顔を覆い、外で働くことが制限されています。彼女たちにとって、自立して働くことは新鮮な喜びでもあります。工場で働くサウジの女性から「誇りを持って働くことができて本当に幸せ」というメッセージが会場で流され、高原社長が心を動かされた様子に、こちらまで感動したというひと幕がありました。

実際に話を聞いてみると、女性に優しいどころか、ハードワークで厳しいという会社でした。しかし透明性も公平性もある。

女性に優しい制度を備えながらも、能力のある女性たちが「もう私のキャリアは子育てで終わった」とモチベーションを保てず辞めてしまう会社も多いなかで、子育てしながらも活躍したい、実力をつけたい、フェアにやりたい女性にはチャレンジしがいのある職場ではないかと思いました。

創業後長いのに、ベンチャー企業のようですね……と最後に聞いたら、

「うちは戦後のベンチャー第1号なんですよ。そのスピリットはずっと失われていないんです」と清水さんは誇らしげに答えてくれました。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授、経産省「女性が輝く社会の在り方研究会」委員

東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。「妊活バイブル」共著者、齊藤英和氏(国立成育医療研究センター少子化危機突破タスクフォース第二期座長)とともに、東大、慶応、早稲田などに「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」をボランティア出張授業。講演、テレビ出演多数。学生向け無料オンライン講座「産むX働くの授業」も。著書に『女子と就活 20代からの「就・妊・婚」講座』『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』『婚活症候群』、最新刊『「産む」と「働く」の教科書』など。