物理的には豊かになったが…

一方、いまの日本の学校は、物理的には恵まれた環境で、物資や設備はそろっています。

そこであえて厳しい環境を用意しようとすると、子どもを心理的に追い込むやり方になりがちです。物理的に過酷ではない分、心理面で厳しくする傾向があるのかもしれません。

その結果、勉強面や生活面に多くのノルマが課され、基準に達しない子どもには「もっと頑張れ」と厳しく接してしまうことが考えられます。いまの学校は、子どもたちにとって心理的に過酷な環境になっていることが多いように感じます。

しかし、子どもは心理的に過酷な環境で、「甘えるな」「ちゃんとやれ」と叱られ、「人を頼るな」「自分で考えろ」と突き放されたら、くじけやすくなります。そのような育て方をされたら、子どもは不安を感じやすくなり、ちょっとした失敗で落ち込んでしまうようになります。心理的に過酷な環境では、子どもは心の支えを得られないのです。

子どもは「ちゃんとやれ」と言われすぎている

近年、心の強さを示す言葉として「レジリエンス」という用語がよく使われています。これは「回復力」「再起する力」と言われたりもしますが、わかりやすく言えば、くじけてしまったとき、また立ち直ろうとする力のことです。

子どもはさまざまなことにチャレンジします。ときには失敗することもあります。心が折れてしまうこともあるでしょう。しかし、そこで「また頑張ろう」と思えれば、次のチャレンジに向かっていけます。レジリエンスというのは、そういうときの心理的な回復力、立ち直る力のことをいいます。

精神医学の領域では、小さい頃から心理的に追いつめられて育った子どもには、レジリエンスが十分に形成されにくいと言われています。

ノルマ化とダメ出しが多い環境というのは、大人が子どもに「ちゃんとやれ」と言い過ぎる環境です。それは心理的に過酷な環境であり、そこでは子どものレジリエンスは十分に育たないのです。

体は健康なのに、自殺率はワースト5位

ユニセフが2000年以降、各国の子どもたちの状況を調査して発表しています。この調査の2025年版で、日本は36カ国中、「幸福度」(これは「身体的健康」「精神的幸福度」「スキル」の3つの分野で評価)では14位でしたが、各分野では以下の順位となりました(身体的健康とスキルは41カ国で調査)。

日本の子どもたちは、体の健康では1位でしたが、精神的幸福度、つまり心の健康では、下位の32位でした。これはつまり、日本は体の健康と心の不健康を両立させる技術において、世界でも有数の国だということです。日本の社会が、いかに心の健康をおろそかにしているのかがよくわかります。

【Q1のまとめ】

昔は資源や設備が不足して「物理的には厳しく」、いまのほうが「心理的に厳しい」と言えます。

いまは子どもを心理面で追い込み、頑張らせすぎている場合が多いです。小さい頃から心理的に追いつめられて育った子どもには、レジリエンスが十分に育ちません。

ノルマを増やした結果として、子どもたちの心の健康が損なわれているのです。