変化の激しい時代。これからの学校教育に大切なことは何か。2024年に東大合格者100人を輩出した、神奈川県にある聖光学院の工藤誠一校長は、「知識の詰め込みを主とする教育は避けるべき。自分の頭で考えて行動できる人間を育てるための、我が校の取り組みを紹介しましょう」という――。

※本稿は、工藤誠一『VUCA時代を生き抜く力も学力も身に付く 男子が中高6年間でやっておきたいこと』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

教室
写真=iStock.com/mapo
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進学実績がふるわなかった10年間

本校は、進学校としての要請に応えつつ、リベラルアーツや生徒の主体的な学びを重視していますが、その歴史を振り返ると「管理型」と呼ばれる時期がありました。私が聖光学院に社会科教諭として奉職した頃のことです。

ちょうど、学校が経営面で揺れていた時期でした。学校内部が不安定になると、生徒は学校への不信感が募ります。すると、生徒に対する学校の対応は自然と管理的になっていきます。

本校の場合は、中高一貫校でありながら、中学と高校を分断し、学習指導よりも生活指導を最優先する時期が10年ほど続きました。

着任したばかりの私は、生徒として良き時間を過ごした母校の変化に複雑な思いを抱きながら生徒の指導に当たっていたのですが、その時期、進学実績は今ひとつふるいませんでした。

生徒が力を発揮するには「安心して学べる環境」が必須

私が思うに、教員主導の決定事項ばかりで生徒が主体的に学べる余地をもたない管理的な在り方は、生徒を萎縮させてしまいます。

また、教員の側も落ち着いて授業の準備などできる雰囲気ではありませんから、どうしても、知識の詰め込みを主とするような、知的好奇心を刺激しない授業になっていたのです。

本校が管理型の進学校として停滞していた10年間を、私は「失われた10年」と呼んでいます。生徒が思い切り力を発揮するためには、安心してのびのびと学べる環境が必要であり、それを支える教職員の安定が必須なのだと、私は失われた10年を通じて学びました。このときの経験は、今の私の学校運営にも活かされています。私学の校長の重要な役割は、生徒に対してだけでなく、「ここにいれば安心して生徒に向き合える」と教職員に思ってもらえるよう、働きやすい環境を整え、学校運営を安定させることだと、肝に銘じています。