コロナ禍後の百日咳の感染拡大
なぜ、ここにきて感染拡大しているのでしょうか。実はコロナパンデミック中は感染予防の効果で百日咳も減っていましたが、社会活動が平常化するとともに百日咳患者の報告数は2024年の中頃から再び増加に転じました。世界中で同様の現象が報告されていますが、日本では2025年に入ってからの4カ月間(1~4月)に報告された患者数は1万人を超え、2024年一年間の合計(4054人)をすでに上回っています。
現在の流行は2018~2019年の大流行に匹敵する勢いであり、コロナ禍で減少していた患者数がパンデミック前の水準に戻っているわけです。2018年と2019年には国内で年間1万人以上の患者が報告されましたが、2024年末から2025年にかけての急増により、それを超えそうな規模での流行が今回起こっています。
今回の流行でも患者の多くが子どもです。報告例の約6割は15歳以下で、特に10歳未満の小児が多数を占めています。そして重症化リスクが最も高いのは、予防接種前あるいは接種途中の生後6カ月未満の赤ちゃんです。実際に乳児の患者も増えており、自治体や医療機関からは乳児の重症化防止に向けた注意喚起がなされています。
一方で乳幼児以外の患者も増えており、私のクリニックにも受験生世代から大人まで百日咳と診断される方が少なくありません。この5月には、全国で検査数が増加したことにより検査試薬が足りなくなり、十分な検査もできない状況になっています。乳幼児より上の年齢では前述のように軽症で見逃されやすいものの、2024年の東京都内の患者400人のうち約半数は乳幼児期に百日咳の予防接種を4回受けていた人でした。これは、ワクチンを受けていても時間の経過とともに免疫が薄れてしまうことを意味しています。
百日咳流行拡大の背景には、コロナ禍で流行が一時抑えられた反動で、社会全体の百日咳に対する集団免疫(みんなが持つ免疫力)が低下し、感染しやすい人が増えたこと、抗菌薬が効かない耐性菌が出現していること、大人から子どもへの感染(家庭内感染)が増加したこと、といった原因が考えられます。
こうした中でマスクや手洗いといった衛生面に加え大切なのが、予防接種によって事前に免疫をつけておくことです。
百日咳の予防接種(ワクチン)が重要
百日咳はワクチンで予防可能な感染症です。日本では定期予防接種として乳幼児期に計4回の百日咳含有ワクチン接種が推奨されています。現在は他の病気の予防も加えた、5種混合ワクチンが使用されています。
標準的なスケジュールは生後2カ月、3カ月、4カ月の計3回と、1歳~1歳半頃に追加の4回目を接種します。厚生労働省も「生後2カ月に達したらできるだけ早く接種を開始しましょう」と呼びかけており、乳児がいるご家庭ではスケジュールどおり、なるべく早期に接種を受け始めることが重要です。
乳幼児期にしっかり免疫をつけておくことで、重症化や死亡のリスクを大幅に下げることができます。報告では、百日咳含有ワクチンの接種によって発病リスクを約80~85%減らせるとされています。仮に感染してしまった場合でも、ワクチンを受けていれば症状が軽く済む傾向があります。
ただし前述のとおり、幼い頃にワクチンを受けていても年齢が上がるにつれて免疫効果は徐々に薄れてきます。百日咳含有ワクチンによる免疫の持続期間は一般に5~10年程度とされ、ちょうど受験にも関係する小学校および中学校入学前後から再び感染しやすくなる可能性があります。実際、日本小児科学会によれば、4回の乳幼児期定期接種を完了していても、学童期には感染例の報告があることが示されています。
そこで日本小児科学会は任意接種として、小学校入学前(就学前1年間)に百日咳を含有する3種混合ワクチン(DTaP)を追加接種し、さらに11~12歳頃にも本来11歳で行われる2種混合(ジフテリア・破傷風)ワクチンを3種混合ワクチン(DTaP)に置き換えて接種することを提案しています。
実施すれば学童期以降の免疫維持に役立つと期待されています。これはちょうど小学校受験、中学校受験の準備時期に重なるわけです。費用は5000円から1万円程度かかりますが、「合格」のためには子供の勉学だけでなく、家族がこうした「追加接種」の情報をしっかりキャッチして、実践することも重要になります。


