激しい咳が長く続く百日咳が大流行している。ナビタスクリニック川崎院長の医師・谷本哲也さんは「適切な時期にワクチン接種を受けて免疫をつけておけば、たとえ流行が起きても過度に怖がる必要はありません。家族で協力して感染症から身を守り、万全のコンディション維持に努めましょう」という――。
百日咳菌
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今春、日本各地だけでなく、アメリカや韓国など世界中で百日咳(ひゃくにちぜき/ひゃくにちせき)の感染が広がっています。乳幼児で特に重症化しやすい病気として知られていますが、実は保育園児や小学生とその家族にとっても見過ごせない感染症です。

正しい知識と予防策を身につければ、過度に不安になる必要はありません。百日咳とはどのような病気なのか、2024~25年にかけての感染拡大の現状、そして予防接種(ワクチン)の重要性について解説します。

百日咳とはどんな病気?

百日咳は、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)という細菌による呼吸器の感染症です。感染力が非常に強く、主に患者の咳やくしゃみの飛沫を通じて周囲へうつります。パータシスとは激しい咳を意味するラテン語です。

名前のとおり長引く激しい咳が特徴で、典型的には「コンコンコン……ヒュー」といった発作的な咳が何度も起こり、2~3週間にわたり強い咳込みが続きます。その後も回復までさらに2~3週間、場合によっては3カ月近く咳が続くこともあります。この長引く経過が「百日咳(百日間も咳が続く)」と呼ばれる理由です。

特に乳幼児にとって危険な病気です。生後6カ月以下の赤ちゃんが感染すると、咳込みで呼吸ができなくなり、全身が青紫色になったり(チアノーゼ)、けいれん発作を起こしたりすることがあります。最悪の場合、肺炎や脳症を併発して命を落とすこともあるのです。

一方、年長児や大人が感染した場合は重症化しにくく、激しい咳ではなく「ただ咳が長引くだけ」といった症状で多くは経過します。それでも、受験や定期テストなどを控えた児童・生徒の場合は、咳のため勉強に集中できなかったり、夜間の咳で眠れず寝不足になったり、といった勉学への悪影響もあります。大人でも仕事や日常生活に差し支えます。

咳がひどくならない場合は、医療機関を受診しなかったり百日咳と診断されなかったりするケースも少なくありません。ただし、症状が軽くても感染力は強いため、本人が気づかぬうちに周囲へうつしてしまう点に注意が必要です。