誰一人、親を恨んでいるとは言わなかった

主人公たちがまっすぐな眼差しで語る生い立ちの物語は、彼らのさらりとした表情とは裏腹に、壮絶であり、無惨だ。

「彼らの話を聞くところから始まったのですが、彼らの言葉がめちゃくちゃ一緒で、こんなにみんな、育つ環境も性別も違うのに、言っていることが、何で同じなの?って驚きでした。みんな、顔も知らなかったはずなのに、なぜ、親からやられたことが同じなの? 何で、わかっちゃうんだろうって、不思議に思うぐらい。でも、それって、結局、同じことが繰り返されているからなのです」

映画『花束』ポスタービジュアル
映画『花束』 監督=サヘル・ローズ、エグゼクティブプロデューサー=岩井俊二、音楽=SUGIZO、脚本=シライケイタ

それは、サヘルさん自身の生い立ちとも丸ごと被るものだった。母親が横で包丁を持って立っていたと証言した女性は、かつてのサヘルさんの姿そのままだ。

「そうであっても、彼らは誰一人として、親を憎んでいるとは言わなかった。『虐待』っていう言葉を使うと、親が悪いだけで終わってしまう。だけど、そうじゃなくて、その親がどういう経緯で虐待行為をしてしまったのか。その視点を、落としてはいけないと思う」

映画には、主人公たちが役者として演じ、時には音楽を奏でる場面も登場する。

「完全にドキュメンタリーにしなかったのは、彼らに表現というものを通していろんな感情に出会わせたかったから。それが最大のメンタルケアだと、私は思っています。医療機関によるメンタルケアを受けてこなかった自分が書くこと、写真を撮ること、演じることなど、いろいろなツールを使って表現していくことで、私は自分をメンタルケアしているんです。

表現を通したセルフメンタルケアに辿り着いたのですが、それを下の世代にバトンとして、方法として伝えたいって強く思いました。セリフの言い回しなどは、彼らのアドリブです。音楽も、実際に自分たちで弾いています。私がこの映画で伝えたかったのは、どんな生い立ちであれ、自分にしかできないことがあるし、それぞれが得意分野、才能っていうものを、人間はみんな持っているということなのです」