学問の入口としての中学受験②

中高一貫校の「中学卒業論文」

先ほどの「中学受験で得られる財産」にて、中高一貫校に進学すれば、受験からしばらくの間は解放され、部活動や趣味などに専念できると申し上げました。

さて、多くの私立中高一貫校では中学校三年生のときに「卒業論文」(この名称は学校によってさまざまです)に取り組ませるという試みを講じています。卒業論文と言いましたが、これは「中学卒業」を指しているのですね。

わたしの手元にも数々の中高一貫校から頂戴した「卒業論文集」がありますが、それらを読んでいると実に膨大な時間をかけて在校生たちが執筆していることがよくわかります。

その大半が、自身の興味を抱くテーマについて先行研究を参照しつつ、持論を展開するというものです。一例を挙げてみましょう。

新宿区にある男子校・海城中学校の社会科卒業論文集(2021年度)に掲載されている論文の一部のタイトルを紹介しましょう。

●「終末期医療における自己決定の尊重を実現するためには―尊厳死法制化論争やACP導入を通して」

●「ヤングケアラー支援に向けて―スクールソーシャルワーカーの配置と法整備の重要性」

●「商店街衰退とその再生―丸亀町商店街の事例と商店街の地域コミュニティ機能から考える」

●「東京における農的空間の保全・創出―農サービスと農業体験農園から考える農地の活用方法」

●「外国籍児の教育サポートと多文化共生―横浜市飯田北いちょう小学校と浜松市の例から」

いかがですか。タイトルだけでも歯応えのある論文であることが理解できるでしょう。実際、これらの論文に目を通してみると、その緻密な出来栄えに驚嘆させられるものばかりなのです(もちろん、担当教員の指導の下で執筆していくのでしょうが)。

そういえば、千代田区の女子校・三輪田学園で校長を務める塩見牧雄先生に話を伺っていたときに、中学の卒業論文で選んだテーマがその子の将来を決定づける事例がよく見られると口にしていました。

こういう取り組みは、前述した、これから日本の標準的な「学歴観」に対応するものになるとは言えないでしょうか。

中高一貫教育は「高校入試」がない分、「余白」があると先に述べましたが、こういう時間を活用して、子どもたちの知的好奇心、探究心を刺激するような実践がおこなわれることがあるのです。中高一貫校の魅力の一つと言えるでしょう。

大学入試で隆盛を誇る「総合型選抜」

昨今は大学入試の在り方が大きく変わってきています。その一つとして、「一般入試」という従来の科目試験で選抜する方式ではなく、「総合型選抜」(旧AO入試)が数多くの大学の入試方式として登場しました。この方式を採択した日本の国立大学は、約8割とされています。

矢野耕平『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』(KADOKAWA)
矢野耕平『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』(KADOKAWA)

これは、受験生たちにエントリーシートを提出させ、加えて、論文や面接、プレゼンテーションなどを課して合否を決めるというものです。

この「総合型選抜」で受験生たちが問われるのは、「この大学でどういうものを学び、その専門性を深めたうえで将来にどう活用していきたいのか?」ということです。大学側が求める生徒像にふさわしいか審査しているとも形容できるのです。

先ほどの「卒業論文」だってそうですが、中高一貫校は6年間という時間を存分に活用して、科目学習にとどまらないさまざまな学びを提供しています。

たとえば、野外体験授業、卒業生などの社会人による講演会やキャリア教育、海外研修や短期・中期・長期の留学制度、理科実験講座、ICT教育、日本語のみならず英語を用いたプレゼンの機会、高大連携によるアカデミズムに触れる機会……。

これらはほんの一例に過ぎませんが、保護者の皆様はわが子の志望する可能性のある中高一貫校のWEBサイトを閲覧する際には、「大学合格実績」のところばかりでなく、その教育内容をくまなくチェックしてみてください。各校独自の取り組みをたくさん発見することができるでしょう。