アメリカのトランプ支持者が信じる陰謀論とはどのようなものか。『西洋近代の罪 自由・平等・民主主義はこのまま敗北するのか』(朝日新書)を上梓した社会学者の大澤真幸さんは「典型的な陰謀論では、トランプと民主党のエリートの闘いは善と悪の最終戦争とみなされ、子どものイノセンスと道徳維持のためにトランプが闘っているとされる」という――。

トランプ支持と深く結びつく陰謀論

アメリカの話題を続けよう。ここで、いわゆる「陰謀論」に少しばかり立ち入っておきたい。一部のトランプ支持者は、陰謀論を通じて状況を解釈し、トランプを応援しているからである。すべてのトランプ支持者が陰謀論を信じているわけではない。が、すぐ後に述べるように、陰謀論を唱えたり、受け入れたりしている人は決してごく少数というわけでもない。

しかも、逆側は、つまり陰謀論を根拠にして民主党を支持している人はほとんどいない。陰謀論はトランプ支持と深く結びついた現象である。

トランプ自身はどうなのか。彼が公然と、極端な陰謀論――たとえばQアノンのそれのような――を語ることはないが、しかし自身を陰謀論的なコンテクストで支持している者がたくさんいることを理解しており、明らかにこれに便乗している。

また、トランプやその側近も、陰謀論の中心的な観念「ディープステート(闇の政府)」にはしばしば言及してきた。自分たちは、ディープステートと闘っているのだ、と。

2025年4月8日、ワシントンD.C.のホワイトハウスで、大統領令に署名するドナルド・トランプ米大統領
写真提供=Pool/ABACA/共同通信イメージズ
2025年4月8日、ワシントンD.C.のホワイトハウスで、大統領令に署名するドナルド・トランプ米大統領

どれくらいの人々が陰謀論を受け入れているか

ここで、「ディープステート」の直接的な指示対象は民主党政権や民主党のリベラルな指導者たち(オバマ、ヒラリー・クリントン、バイデン等)だが、それらが「ディープ(闇の)」と言われるのは、彼らがいわば二重性を帯びており、陰の見えないところであやしげな陰謀にコミットしていると見なされているからだ。

イーロン・マスクの「政府効率化」もただの行政改革ではない。民主党政権がディープステートだったならば、多くの職員が陰謀にかかわっていたはずであり、そうした職員を見つけ出し、追放することが、政府効率化の(ひとつの)目的である。

どのくらいのアメリカ人が陰謀論を受け入れているのか?

ベネンソン・ストラテジー・グループが2022年10月に実施した意識調査によれば、「連邦政府が秘密結社(secret cabal)に支配されている」という見解に賛成だと答えた登録有権者の率は、なんと半数近く――44%――にもなる。

共和党員に限定すれば過半数(53%)、民主党員に関してはこれよりもだいぶ少ないが、それでも3分の1を超える数(37%)の者たちが、この意見に同意している。

ここで「秘密結社」という語をゆるやかに、「隠れてこそこそと不正を働いている連中」という程度にとればノーマルな認識に近づいてくるので、この数字をそのまま、陰謀論の信奉者の比率と解釈することはできないかもしれないが、きわめて多くの普通のアメリカ人が陰謀論に親和的な世界観をもっていることは確かである。