日本人は自己批判が強く、良い面を誇ることができない?

――山崎監督の感じた日本の良さと弱点はどんなことでしょうか。

【山崎】全部が紙一重だと思います。例えば小学校では、集団生活が強要され、連帯責任や同調圧力があるのは悪い点とよく言われますよね。でも、他人を自分のことのように感じる思いやりとか共感、協力し合うことはすてきなところ。コロナ禍で日本の結束力が強かった理由としても指摘されていましたよね。

ルールを破ろうとする人たちへの厳しさにも良い面と悪い面があって、“マスク警察”みたいな暴走もある一方、コロナ禍における死者数は少なかった。それに、日本は自己批判が強いんですよね。世界から見ると「日本はすごいね」とほめてもらえるのに、なんで日本社会にはこんなに幸せじゃない人たちが多いのでしょう。

――日本人の自己批判が強いのは、なぜだと思いますか。

【山崎】課題を受け止めつつも、良いところに気づいて誇りを持つ。そのバランスが取りにくいのかなと思います。だから教育についても、「日本の教育は全部ダメ」みたいな空気がありますよね。私自身、日本の悪いところしか見えなかった時期もありましたが、日本の“良いとこどり”して生きていけたらいいなと思うようになりました。

今の社会で何をできるか?と考え、ドキュメンタリーや映像を通じて自分ならではの視点で気づきを提供できたら……と思い、日本に帰ってきたんです。世の中のルールなど、何かを変えるには時間がかかりますが、映画を見て“気付く”ことは一瞬でできる。同じ環境でも視点を変えるだけで幸福感や誇りを持てるし、本当の課題に集中できる。「全部ダメだ」という空気は損だから、課題と同時に良いところも伝えたいなと思います。

『小学校〜それは小さな社会〜』より
『小学校〜それは小さな社会〜』©Cineric Creative/NHK/Pystymetsä/Point du Jour

「教師はブラック労働だ」というイメージを変えたい

――「学校」や「教育」を題材にした作品はフィクション、ドキュメンタリー含めいろいろありますが、なぜこの作品がこんなにも話題になったのだと思いますか。

【山崎】教育に関して、不登校などの課題を取り上げてくれる方は他にもたくさんいらっしゃる。一方、職員はブラックだというニュースばかりが流れていて、教員のやりがいとか生きがい、人間らしい悩みなどは取り上げられていないですよね。そうした社会の真ん中を映画にしたいという思いが私の原動力になりましたし、世界の人も見たことがないから、評価していただいているのだと思います。