日本人精神科医が驚いた“アメリカ人医師の態度”

日本で37%と最も多かったのは、「ちゃんと食べないと大きくなれないよ」「野菜を食べないと病気になって遊べなくなるよ」などと、言うことを聞かないとどういう望ましくないことがあるかを理解させようとする母親だった。このような母親は、アメリカでは23%と権威に訴える母親の半分以下だった。

日本ではその他に、「せっかくつくったのにお母さん、悲しいな」などと、相手の気持ちに目を向けさせようとする母親も22%いたが、アメリカではそのような母親はわずか7%しかいなかった。

さらに、精神医学者であり、「甘え」概念の提唱者でもある土居は、アメリカに研修に行った際に、アメリカの精神科医の共感性の鈍さに驚いた経験について、つぎのように述べている。

私はその間アメリカの精神科医が実際にどのように患者に接しているかをあらためて観察する機会を与えられた。(中略)その結果アメリカの精神科医は概して、患者がどうにもならずもがいている状態に対して恐しく鈍感であると思うようになった。いいかえれば、彼らは患者の隠れた甘えを容易に感知しないのである
普通人ならともかく、精神や感情の専門医を標榜する精神科医でも、しかも精神分析的教育を受けたものでさえも、患者の最も深いところにある受身的愛情希求である甘えを容易には感知しないということは、私にとってちょっとした驚きであった。文化的条件づけがいかに強固なものであるかということを私はあらためて思い知らされたのである
(土居健郎『「甘え」の構造』弘文堂)

何がアメリカ人をそうさせるのか

このような文化的伝統の違いが、自己肯定感をはじめ、あらゆる心理的特徴の文化差につながっている。

榎本博明『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)
榎本博明『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)

アメリカに限らず欧米に留学した学生たちの多くは、向こうの学生たちが、よく言えば堂々としている、悪く言えば偉そうにしており、自分の意見をあくまでも通そうとするのに圧倒されたという。また、向こうの人たちの共感性の鈍さに呆れたという。

それが、たとえば自己愛的な人格障害の典型例の日米の違いをもたらしている。

アメリカ精神医学会の診断基準によれば、誇大性、賞賛されたい欲求、共感性の欠如の三つが自己愛性人格障害にみられがちな特徴とされる。

誇大性というのは、実際以上に自分は優れていると思い込んだり、自分は特別な存在だと思い込んだり、威張り散らしたり、人を見下したりすることを指す。

賞賛されたい欲求というのは、成功者として注目されたい、みんなから賞賛されたいといった思いが強いことを指す。

共感性の欠如というのは、人の気持ちに鈍感だったり、人の気持ちに無関心だったり、人を平気で利用したりすることを指す。

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とくに誇大性や共感性の欠如は、先にみたように、多くのアメリカ人にみられがちな性質と言える。それが極端になると自己愛性人格障害とみなされるわけだが、ごくふつうの人であっても、日本人からみればきわめて誇大的だし、共感性が欠けているということになる。

アメリカでは、人格形成において、自信をもつことが重視され、自己主張ができるようにと訓練されるため、誇大的で無神経なタイプの自己愛過剰が多いのだろう。