文化の違いに目を向ければ謎が解ける
日本の若者の自己肯定感得点が欧米の若者と比べて著しく低いのはなぜなのか。
そこを突き詰めて考えていくと、「自己肯定感が低いのは問題だ」「何とかして自己肯定感を高める必要がある」といった論調がいかに的外れであるかがわかるはずだ。
どの国際比較データでも、「自分に満足」という比率は、欧米の若者では非常に高く日本の若者では著しく低い。そうしたデータが意味するものは、自己肯定感そのものの違いではなく、自分を大きく見せるために過大評価する心理傾向があるか、謙虚さゆえに自分を厳しい目で見つめる心理傾向があるか、といった文化的背景の違いである。
子ども時代にアメリカで暮らした社会学者の恒吉僚子は、アメリカ人の権威的な物言いのきつさに違和感を覚えた経験の一例として、つぎのようなエピソードをあげている。
ある春の日、六歳の私は、母とシンディーという女性に連れられてドライブに出かけた。母が運転し、隣にシンディーが座り、私は後部座席で窓ごしに外の新緑を眺めていた。突然、新緑の薫りを胸一杯吸いたくなった私は、窓を降ろしはじめた。その時、顔を半分私のほうに向けながら、いかにも権威を持った口調でシンディーが、「いたずらは止めなさい」と怒鳴ったのである。そこには、自分の命令を聞かないなどとは言わせない、という威嚇的な雰囲気があった
(恒吉僚子『人間形成の日米比較 かくれたカリキュラム』中公新書 以下同書)
(恒吉僚子『人間形成の日米比較 かくれたカリキュラム』中公新書 以下同書)
日本人母なら何と言って聞かせるか
外気を入れようとしただけなのに、いたずらと決めつけられ怒鳴られた恒吉は、自分の親からこんな理不尽な叱られ方をしたことがないので、反論しようとした。
その言葉を遮って、シンディーはさらに厳しく、「言う通りにしなさい!」と有無を言わせない口調で申しわたしただけであった
これが、もしわが家の出来事であったならば、どうなったか。おそらくは、「他の人が寒いでしょ……」などと言われ、〈自分のせいで誰かに風邪でもひかせたら大変だ〉などと慌てて窓を閉めたに違いない
これが、もしわが家の出来事であったならば、どうなったか。おそらくは、「他の人が寒いでしょ……」などと言われ、〈自分のせいで誰かに風邪でもひかせたら大変だ〉などと慌てて窓を閉めたに違いない
この事例でもわかるのは、アメリカの大人は「自分の権威」を振りかざして人を思うように動かそうとする傾向があるということである。
心理学者の東洋たちが行った日米母子比較研究の結果をみても、子どもが言うことをきかないときの親の対応の仕方における日米の対照性がよくあらわれている。
たとえば、食事をちゃんと食べないとき、アメリカの場合、親としての権威に訴えて、「食べないとダメでしょ」「言うことを聞きなさい」などと、理由はわからなくてもとにかく親の言うとおりにさせようとする母親が50%と圧倒的に多かった。そのように親としての権威に訴えて、有無を言わさず子どもを従わせるという母親は、日本では18%しかいなかった。

