「思い込み」がポテンシャルの足かせに
このように、脳の可塑性という側面で見れば、早生まれの子は遅生まれに対して有利なはずです。もちろん幼少期は、1年という物理的な差と脳の成長の男女差が、表面的な成績の差を生むことはあるでしょう。ただ、高校受験頃になれば、その差は縮まるどころか、早生まれの早期のポテンシャルが発揮されるフェーズに入るのではないかと考えています。
しかし、現状の調査では、そうなっていない。それはなぜなのか。
そこには、心理的な作用がマイナスに働いているのではないかと私は考えます。学年の中で、「遅生まれの子の方が成績がいい」「リーダーは遅生まれの子」という状態に、物心がついたときから置かれることによって、「自分はこんなものかな」と考えてしまう。「後塵を拝す」ことが、何となく当たり前になってしまっているのかもしれません。
この「思い込み」こそが、本当はすごい早生まれの子が、能力を発揮することを妨げているかもしれないのです。
「自分にはできない」が悪い結果に
思い込みと成績の関連を示した研究があります。
ここで扱っている「思い込み」は、「女性は男性より数学が苦手」というものです。アメリカの女子大学生を対象にした「ステレオタイプの脅威」に関する調査を確認してみましょう(※1)。
※1 Steven J. Spencer, et al. Stereotype Threat and Women's Math Performance. Journal of Experimental Social Psychology , Volume 35, Issue 1, January 1999, Pages 4-28.
この調査では、数学のテストの前に「このテストの成績に男女差はなかった」と説明した学生たちと、「このテストの成績に男女差があった」と説明した学生たちの成績を比べています。すると前者より後者の方が、成績が悪かったのです。
女子大学生は、「数学のテスト結果に性差がある」といわれたことで、自らの数学の成績を下げてしまったことになります。これが「ステレオタイプの脅威」です。
「性差がある」と聞いただけで、「女性は数学が苦手」というステレオタイプに自らが囚われてしまったわけです。