キッチンに集う若き経営者たち
ホーミーズキッチンには経理担当が在籍しており、出店者の売り上げをまとめている。手数料として毎月の売り上げから3%を引いた金額が出店者の手元に戻るという。駆け出しの起業家にとって、事務作業に追われずに済むのはありがたいことだろう。
ただ、クラウドキッチン側の利益が3%というのは、少ないように感じた。ホーミーズキッチンの代表・小南さんはこう答えた。

「出店者さんが成功していくことが理想なので、そこで利益を出そうと思っていないんです。その人が倒れてしまっては元も子もないですし、そんな商売は長続きしないと思っています。その人たちがどんどん育って、経営者が増える方がいいじゃないですか」
また、果穂さんが一気に注目を集め、てんてこ舞いになっているのを知った小南さんは、ホーミーズキッチンで出店している各店舗への問い合わせを、代わりに対応することにした。そのおかげで、果穂さんを含む出店者は、取材や問い合わせの対応に追われることなく事業に集中できるようになった。
もっと自分を出していい
「この1年間の中で、一番大きな変化はなんでしたか?」と聞くと、果穂さんは少し考えてこう答えた。
「今までと生活が変わったことで、もともとの性格とは別というか……外向的になったのが私的に1番印象深いです」
開業から10カ月経った昨年11月、果穂さんは初めて黒字化を達成。翌12月は売り上げが100万円になった。とはいえ、経費を差し引くと手元に残る金額はほんの僅か。まだまだ店は綱渡りの状態であることに変わりはない。
だが、彼女は次なる目標を見据えている。
「スタッフを雇って、大きくなくてもいいから2、3店舗くらい出したいです。今まで誰かに仕事をお願いしたり、指示を出したりしたことはないけど、やれるようにならなきゃ。やるしかないって思います」

果穂さんは10代の頃に父から「家を出るように」と言われ、少なからず恨んだことがあった。そこから気持ちの変化はあったのだろうか。
果穂さんは「今は、一人暮らしの方がいいです」と笑う。また、「実は、(経営や接客については)父からのアドバイスを実践してるんです」とも教えてくれた。
「若い時って守りに入ってしまって、恥ずかしいことはしたくないって思いがちだと思うんです。私も実際、リヤカーで歩くのは恥ずかしいって思ってました。でも、父から『失敗したことはどんどん表に出せばいい。もっと自分を出した方がいいよ』って。それからは売れなかった時や厨房でミスした時も隠さなくなりました。私の性格を一番知るのは、やっぱり親なので」

愛知県出身。大手ブライダル企業に4年勤め、学生時代に始めた社交ダンスで2013年にプロデビュー。2020年からライターとして執筆活動を展開。現在は奈良県で社交ダンスの講師をしながら、誰かを勇気づける文章を目指して取材を行う。『大阪の生活史』(筑摩書房)にて聞き手を担当。4人姉妹の長女で1児の母。