「指示待ち」の大人を作り出した日本の教育の弊害

――小学校、中学校でも「主体性」を持てるような教育はされていないということですね。

【工藤】そこがまさに問題で、リビルドすべきところです。すべての人間は、生まれながらに主体性を持っています。赤ちゃんは、親の指示を待つことなく、好奇心のままにいろいろな挑戦をします。しかし、成長するにつれ、親や教師の関わりによって、この主体性が抑えられてしまうのです。

与えられることに慣れた人間は、与えられるものの質に不満を言うようになります。今の社会では、指示されたことはできるが、自ら考えて行動することが苦手な人が増えているとたびたび言われます。こうした傾向は、子どものうちから「指示されたことをやり続ける」教育によって形成されます。結果として、職場でも無駄な会議や手続きが減らないなど、日本の労働生産性の低さにもつながっていると考えます。

「御上先生」関連イベントに登壇した元麹町中学校校長の工藤勇一氏
提供=カルペ・ディエム
「御上先生」関連イベントに登壇した元麹町中学校校長の工藤勇一氏

生理用品を万引きした生徒のエピソードで描かれたこと

――「御上先生」の第7話(3月2日放送)では、御上が担任を受け持った高校3年生のクラスで、困窮している女子生徒がドラッグストアで生理用品を万引きするなどし、退学処分になりました。

【工藤】5年前、私が横浜創英中学・高等学校の校長に着任する以前は、問題行動を起こした生徒は最悪の場合、退学処分にされることが一般的でした。しかし、私は「犯罪行為があっても原則として退学させない」方針に変更しました。

学校は教育の場であり、人生のやり直しのできる場であるべきです。教育の場がそれを放棄してしまったら、最悪の場合、その子の将来を閉ざすことに繋がってしまいます。

退学になった生徒が社会に反発し、さらに大きな犯罪を起こすケースは決して珍しくありません。未来の社会を担う人材を育てる場である学校が、学校の秩序を守ることを優先し過ぎた結果として、未来の社会にとって良くない事態を招いてしまうのは本末転倒です。

――現状、高校生が万引きをすると、やはり退学になってしまう例が多いようですが……。

【工藤】「御上先生」では、女子生徒が万引きをしたドラッグストアから高校の職員室に電話連絡が来ていましたね。現実には、万引きが発覚した場合、警察が最初に介入し、事情聴取され、その後に保護者に連絡となるのが一般的です。警察から学校への連絡は、青少年の健全育成を目的に全国の教育委員会や学校との間で結ばれた協定に基づいて行われますから、通常は少し時間差があるのが一般的です。

生徒の健全育成ために結んだ協定による学校への報告ですから、子どもの将来が不利にならないようにすることが条件となっているのですが、実際には、多くの高校で学校や校長の判断で退学処分が下されてしまうのが実態です。