学園ドラマでは初めて? 「教えない」先生

御上先生は、ただ官僚というだけでなく、「教えない」先生。これが今までの学園ドラマとは、全く違う人物設定です。「3年B組金八先生」は子どもたちに自分の価値観を熱く伝えていたし、「ドラゴン桜」の桜木先生は東大合格のためのスキルを教えていた。でも御上先生は、生徒に聞かれても答えを教えず、「考えて」と生徒に促します。生徒が出してきた答えを論評するというスタンスです。

ある種、無責任にも見えるし、ある種、生徒の主体性を信じているともいえる。この微妙なラインは、時代が「ティーチング」から「コーチング」に変化していることを示しているのではないでしょうか。ティーチングとは教えること、コーチングとは、勉強している人を支援していくこと。

今の時代、学校の教師だけでなく、オンライン学習サービスやYouTubeの勉強動画など、先生になりうるものはたくさんあるし、学びも多様です。ですから先生の授業を聞く子に育てるのではなく、学習教材をどう自分が使うのか、自分でどう学ぶのか、学び方を学ぶ子に育てなきゃいけないんです。第2話では、御上先生が学び方を教える「アクティブ・リコール」を提案しましたが、これこそまさにコーチングをしている先生のあり方です。

©TBS 日曜劇場「御上先生」(TBS系)で御上を演じる松坂桃李
©TBS 日曜劇場「御上先生」(TBS系)で御上を演じる松坂桃李

「逆転東大合格」は恩師のコーチングのおかげ?

僕自身の経験からも、そういう先生の存在は大事だと考えています。

高校時代、僕に「東大に行け」と言ったのも、英語や国語の先生ではなく、音楽の先生だったんです。だから、その先生から勉強を教わったことは一切ありません。ただ、その先生がいたから、僕は2浪の末に東大に受かった。その先生は、自己肯定感が低くて、何もできないと思っている僕に、いろいろな本を読ませてくれたり、勉強法や受験への向き合い方を教えてくれたりした。そういう精神的な面で、コーチングをしてもらったなと思っています。

僕にとってその先生は、まさに御上先生です。結局、学校の先生だけが教える存在であるというのは、もう今の時代に合っていない。今は教師にも、一緒に考える、あるいは考えさせるという接し方が求められているのではないかなと思います。

現代の「少子高齢化」が意味するのは、単に子どもが減っているという事実だけではないと思っています。昔に比べ、子どもの数に対し、大人の数が相対的に多くなっているのです。50年前は15歳以下の子ども1人に対して大人が3、4人だったけれど、今や8、9人いるという時代。だから、学校においても生徒の数に対して先生が多く、それは学習環境が充実してきているという側面もありますが、子どもが自ら考える機会を減らしているのではないかと思うのです。