配偶者の優遇措置をなくしたあとの制度設計は?
――配偶者控除の壁を撤廃するというドラスティックな改革をするなら、それに代わる制度設計はどうすればいいと思いますか。
【上野】今はこの制度が変わるかどうかの転換期です。国民民主党は「扶養家族の大学生がバイトでもっと稼げるように」という間違った人気取りをしていますが、学生に長時間労働できるようにさせるなんて本末転倒。バイトしなくても勉学に専念できる条件を整備するのが先です。
ですが、長い間不合理だとして女性が訴えてきた配偶者控除の壁に、政策課題として注目を集めたのは功績かもしれません。冒頭のツイートにも書きましたが、扶養の壁を撤廃して、妻も夫も収入に応じて税金を支払い、保険に加入する。同時に累進課税率(収入が高いほど税金も高くなる)を高めておけば、低所得ならそれほど税額は多くならないでしょう。税制・社会保障制度を世帯単位から個人単位にする必要があります。マイナンバーカードはそのためのもののはずです。
――図表2のように、この20年で無業の専業主婦は激減しました。もし扶養配偶者の壁もなくなったら、遠からず主婦はいなくなるかもしれません。キャリア初期から「主婦研究」をされてきた上野さんとしては、どういう思いで現状を見ていますか。
【上野】私は専業主婦だった母に育てられました。46年前、著書『主婦論争を読む・全記録』を出したときから、母のような専業主婦が減っていくだろうということは予想どおりでしたが、その変化が、ネオリベ的な市場原理が女性を巻き込んだ結果、起こったということは、私たちの望んだ方向ではないので、痛し痒しというところですね。ただ女性たち自身が変わったことも確かなので、その働き方の変化に、昭和型の税制・社会保障制度が追いついていないということを今は注視しています。
取材・文=小田慶子
1948年富山県生まれ。京都大学大学院修了、社会学博士。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門学校、短大、大学、大学院、社会人教育などの高等教育機関で40年間、教育と研究に従事。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。