消費者のニーズが明確だった経済成長時代を引きずっている

右肩上がりの経済成長時代であれば消費者のニーズも顕在化しており、こうした営業組織でも成立していた。顧客のニーズが明確であり、品質のよい製品を製造すればよかった時代だ。一定の販売促進活動をすれば商品やサービスは自然と売れていった。

日本の営業部門はどこかでまだ、その時代を引きずっているように見える。

だが時代は変わっており、営業組織にも改革が必要だ。もし自社の営業組織が、“モノ売り”に徹しているセールスパーソンの集合体であるなら、時代に即した変化をしていかねばならない。

今の時代に求められるのは、顧客とともに価値を創造するマーケティングである。

アメリカの経営学者であるフィリップ・コトラーは「マーケティング5.0」として、ビッグデータやAIなどといった最新のIT技術を駆使し、顧客の体験をより高めていくことが必要だと説いている(図表1)。

消費者はモノを買って得られる「体験」を求めている

現在は様々な商品が通信機能を持っており、インターネット経由で商品を介して、顧客がどのような機能を使っているかということも、リアルタイムに把握することができる。

青嶋稔『売り上げ目標を捨てよう』(集英社インターナショナル新書)
青嶋稔『売り上げ目標を捨てよう』(集英社インターナショナル新書)

小売りなどのサービス産業であっても、スマホでの顧客ID登録などがされれば、商品の販売と顧客の属性、過去からの購買履歴など、様々な情報の分析が可能だ。

市場環境の変化は顧客の価値観を、顧客体験を重視する形に変化させた。

消費者はハードウェアの購入を通して、そこから得られる顧客体験を欲している。例えば製造業ならば、工作機械そのものが欲しいのではなく、「生産革新の実現」を欲している。工作の前後の工程、工作機械の検査装置も含めた工程内での生産革新を実現したいと思っている。建設会社や土木の施工会社なら、建設機械の購入により「安全に工期通りに工事を終わらせたい」と考えているだろうし、一般消費者がゲームを購入する際にはゲーム機そのものよりも「よりリアルなゲーム体験が欲しい」と感じている。

こうした顧客の変化に対して、営業組織はどう変革していくべきだろうか?

BtoC(Business-to-Consumerの略で、企業と一般消費者との取引を指す)の先行事例として紹介した味の素冷凍食品は、より消費者に寄り添うマーケティング手法を模索した事例だ。

青嶋 稔(あおしま・みのる)
野村総合研究所フェロー

1988年精密機器メーカー入社後、10年間の米国駐在などを経て2005年より野村総合研究所に参画。12年同社初のパートナー(コンサルタントの最高位)に就任。19年同社初のシニアパートナー、21年4月より同社初のフェローに就任。米国公認会計士、中小企業診断士。近著に『リカーリング・シフト』(日本経済新聞出版)、『価値創造経営』(中央経済社)など。