食料安全保障とエネルギー安全保障は表裏一体

そう考えると今後、戦争なりテロ行為なり世界的な対立がおさまらない限り、石油価格の高騰以前に、石油の需要と供給の安定した継続は保証できません。GXが謳われる時代であればあるほど、エネルギー問題が世界情勢の鏡であることを政府は政策に反映するべきでしょう。

そこから私は、先の衆議院総選挙でも、各政党の安全保障の政策を真っ先にチェックするようになりました。食料安全保障とエネルギー安全保障が表裏一体だとわかっている政党を選ぶ必要があると考えるからです。

先述の篠原氏の著書には、次のような記述がありました。

江戸時代は、農業技術が格段にアップした時代。けれど、人口が3000万人を超えたことはない、と。

つまり、国内の資源だけで国民を食べさせようとすると、3000万人がある程度の限界だというのです。もちろん、現代の農業生産技術は江戸時代よりもはるかに優れています。しかし、それでも1億2000万人なんて、とうてい無理な数字であることが試算されています。自給率が低く、自国での生産や供給が難しい「資源小国」としての日本を見る思いです。

アグリエコノミクスから見た重大な過渡期

しかし仮に戦争が終わり、世界平和がもたらされて、石油資源を安定的に輸入できるようになったとしても、ゾッとする試算があります。

エネルギーの投資に対する回収率を表すのに、「EROI(Energy Return on Investment)」という指標があります。これは、1kcalの石油を採るのに、どれだけのエネルギーを費やすかを示す数値です。

篠原氏の著作には、昔は1kcalのエネルギーで、200kcalの石油が採れたとあります。

つまり、EROIは200だった。でも近年、アメリカのシェールオイルの場合、EROIが10を割り込むまでに低下しています。そう、石油はすでに供給の危機に瀕しているかもしれないのです。そして、最低でもEROIが3.3なければ採算が取れない状況だということです。

ですから今、世界的に資源争奪戦が起こったり、石油に頼らないでいこうとSDGsが叫ばれたりしていますが、それ以前に“石油のない”現実を想定しなければいけません。今は、まさにエネルギーの転換点。重大な過渡期であるわけです。

製油所工場とつながるネットワークのイメージ
写真=iStock.com/thitivong
※写真はイメージです

繰り返しますが、1kcalの米を作るのに、2.6kcalの石油が必要。

ですからエネルギー安全保障も同時に考えなければ、食料安全保障は発揮できない。それが、畑が教えてくれたアグリエコノミクスの視点です。

構成=池田純子

崔 真淑(さい・ますみ)
エコノミスト

2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。一橋大学大学院博士後期課程在籍中。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)でアナリストとして資本市場分析に携わる。債券トレーダーを経験したのち、2012年に独立。著書に『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)などがある。