松本を番組復帰させるならば、テレビ局のガバナンスも問われる
宮迫博之が引退して「アメトーーク!」がホトちゃん一人になり、かえって風通しがよくなったように、パワハラ体質のMCがいないほうが安心して観ていられる、という視聴者も少なくはない(それはそれとして、闇営業の宮迫は引退、性加害疑惑の松本は復帰というのは理解しがたいが)。
同様に、松本人志やダウンタウンの得意としてきた「イジる」笑い、他人が困惑する様子を観察して喜ぶ笑いは、おそらく視聴者から受け入れられにくくなってきている。価値観が変わってきているのだ。
しかし、吉本興業のリリースは、「松本人志の活動再開につきましては、関係各所と相談の上、決まり次第、お知らせさせていただきます。」という一文で締めくくられている。
企業体質が問われているのは、吉本興業だけではない。「活動再開」に向けて、テレビ局が「人志松本のすべらない話」などの冠番組を復活させる、または「M-1グランプリ」の審査員に例年どおり松本を起用するならば、公共性のある認可事業のメディアとして、独自に調査を行い、「出演に問題なし」と判断した根拠を示す必要があるだろう。
性加害疑惑を抱えた人が万博アンバサダーでよいのか
このタイミングでの松本の裁判取り下げは、年末に生放送する「M-1グランプリ」出演に間に合わせるため、また2025年の大阪万博アンバサダーを続けるため、と推測する向きもある。
だが、松本は性加害報道を否定できてはおらず、問題が消えたわけではない。ふりだしに戻っただけだ。事実説明の会見も、謹慎も、和解も、謝罪も、慰謝料の支払いも、一切なされていない。
日本は海外に比べ、性犯罪の扱いが軽い。欧米であれば、松本のような性加害疑惑があるタレントはすぐに職を失うだろう。
『週刊文春』によれば、上下関係を利用し、後輩芸人に女性を集めさせ、飲み会と称してホテルの部屋に入れて、スマホを取り上げて証拠を残せないようにし、屈強な男性が怒鳴ったりおどかしたりして被害者の退路を断つ「エントラップメント型」性加害をくりかえしていたという松本が、芸能界に復帰し、大阪万博の公式アンバサダーとなる。出展する各国政府が報道の詳細を知ったら、どう考えるだろう。
いのち輝く大阪万博は、日本の「性加害への寛容さ」のまたとないアピールの機会となるかもしれない。
東京大学文学部卒業、出版大手を経てフリーに。企業広報やブランディングを行うかたわら、執筆活動を行う。芸能記事の執筆は今回が初めて。集英社のWEB「よみタイ」でDV避難エッセイ『逃げる技術!』を連載中。保有資格に、保育士、学芸員、日本語教師、幼保英検1級、小学校英語指導資格、ファイナンシャルプランナーなど。趣味は絵本の読み聞かせ、ヨガ。