ほとんどのケースで、年金繰り上げのメリットはない

改めて言うが、年金繰り上げにメリットはない。

最後に年金繰り上げのデメリットと注意点を整理してみよう。

年金繰り上げのデメリット

①繰り上げにより年金受給額が減る。
1962年4月2日以降生まれの人で、月当たり0.4%減り、5年繰り上げで24%の年金が減る。
(1962年4月1日以前生まれの人なら、月当たり0.5%、5年で30%減る)
②いったん繰り上げると変更できないので、生涯減った年金をもらい続けるしかない。
③人の寿命はわからない。年金は「長生きのリスク」を担保するための最良の手段なので、本来の金額より減らすことは避けたい。

年金保険料はすでに支払い済みで、寝たきりになっても終身給付を受け続けることができるのが公的年金の最大のメリットである。

シニア男性のケア
写真=iStock.com/byryo
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年金繰り上げの注意点

①厚生年金と基礎年金を同時に繰り上げる必要があり、別々に行うことはできない。

②障害年金に関する制約
年金の繰り上げ期間は障害年金が受け取れなくなる。また、繰り上げ受給をした後に障害状態になった場合は、原則、障害年金を受け取れない。

③遺族年金に関する制約
年金の繰り上げ期間は遺族年金が受け取れなくなる。
老齢基礎年金の繰り上げと寡婦年金は併給不可。寡婦年金を受給中の妻が老齢基礎年金の繰り上げを請求すると、寡婦年金は終了する。
寡婦年金は、自営業者として一定の条件を満たした夫が死亡した場合、妻が60歳から65歳になるまで受け取れる年金である。

④国民年金に関する制約
任意加入への制約
年金繰り上げをすると60歳以降国民年金への任意加入ができなくなり、保険料免除や納付猶予を受けた期間の追納ができなくなるので、国民年金を増やせなくなる。
付加年金への制約
老齢基礎年金とともに付加年金を受け取る場合、老齢基礎年金を繰り上げると、付加年金も同じ率で減額される。付加年金は、国民年金を補完する役割があり月額400円の付加保険料を納めると、「200円×その納めた月数」が生涯受け取れるもの。