年金の繰り下げ受給を検討してもいい

一方、会社員の上野さんも、備えが不十分だったと言わざるを得ません。彼女の平均年収は500万円だったそうですから、勤続年数と掛け合わせて考えると、退職時の時点で2000万円ほど貯金があると望ましかったのかなと感じます。ちなみに、退職金も支給されたようですが、それは、住宅ローンの返済に全て使ってしまったそうです。

そこで、老年期に差し掛かってからとれる老後資金対策について考えてみたいと思います。

まず、貯蓄がそれなりにある方や、65歳以降も働き続ける場合には、年金の繰り下げ受給を検討したいところです。繰り下げ受給を選択した場合、1カ月繰り下げるごとに0.7%増額されるため、たとえば70歳まで繰り下げすると、42%の増額となります。上野さんのケースでは年金額が12万円から17万円ほどになる計算なので、かなり大きいですよね。また、増額となった金額を一生涯受け取れることも、大きなポイントでしょう。2022年4月からは最大75歳まで繰り下げ可能となり、84%も増額できることになりますから、受給タイミングをシミュレーションしてみるといいと思います。

また、会社員の方の場合、なるべく長い期間、厚生年金に加入しておくことで年金が上積みされる可能性が高いので、繰り下げ受給と併せて検討してみてください。

50代からの「ねんきん定期便」は「リアル金額」に近い

年金の話でいうと、50代以上の方は特に、「ねんきん定期便」をしっかりチェックしていただきたいと思います。というのも、50歳から記載される「年金見込額」は、40代まで記載されていた「加入実績に応じた額」に比べ、実際に受け取れる“リアル年金額”に近いものなんです。

ぼんやりとした「老後不安」を数字として明確に把握することで、対策を打つことができます。この「年金見込額」をもとに、本当は老後資金にいくら必要なのか、引退後の生活スタイルと合わせて考えてみましょう。また、上野さん、坂戸さんは持ち家がありましたが、支出の大部分を占める老後の「住居費」がどれくらいになるのか、「住まい方」とともにシミュレーションしておくことも重要でしょう。

年金手帳
写真=iStock.com/banabana-san
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今50歳の方が65歳まで働くと考えれば、あと15年。70歳までなら20年の時間があります。早めに気づけば気づくほど、対策として打つ手も多くなりますし、貯められる金額が増える可能性が高いです。

一方、「時間」という最大のメリットが活かしにくい年代になってしまった上野さん、坂戸さんの場合、今後資金が厳しくなった際には、公的機関による支援をご紹介することになりそうです。ただ、幸いにしてお二人とも健康なので、働けるタイミングで働きつつ、私も節約術などでバックアップしていきたいと思っています。お二人のケースを他山の石として、シニアライフの教訓にしていきましょう。

高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士

慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年前後のお金の強化書』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。