年金収入だけでは足りず清掃員や事務仕事を掛け持ち

そしてもうお一人は、80歳を目前に控える坂戸敏夫さん(仮名/78歳)。会社員経験はなく、長らくフリーランスのカメラマンとして仕事をしてきた坂戸さんは、主にファッションや広告業界で活躍。最盛期には月収100万円も珍しくなかったそうで、最低でも毎月50万円は売上があったとのこと。バブル時代の華やかな業界で活躍していただけに、当時は付き合いも多く、散財を繰り返していたそうです。

しかし、出版・広告業界の低迷や若手の台頭、自身の加齢などもあり、徐々に仕事は先細り。今でも仕事があれば引き受けるそうですが、カメラマンとしてはここ数年、廃業状態になっています。そして、「後先をまったく考えていなかった」とご本人が語るだけあって、貯金や資産運用もほぼ皆無。国民年金が未納になっている月もあったため、年金支給額は月5万5000円になっていました。かなり厳しい状況ですが、親から譲り受けた一軒家があったため、住む場所を確保できていたことは、唯一の救いでしょう。

坂戸さんはかつて結婚していましたが、その浪費癖から妻に離婚を言い渡され、現在では子どもとの親交もほとんどなく、援助は頼めないと言います。とはいえ、5万5000円では生活が立ち行かないので、清掃員と公民館の事務仕事を掛け持ちし、毎月9万円の収入を得ています。

離婚届
写真=iStock.com/manbo-photo
※写真はイメージです

しかし、これらの仕事も80歳になると働けなくなってしまうこと、そもそも自分の体力的にも限界が近づいていることから、「2年後の生活がまったく見えない」と話します。

自営業者は意識的に老後資金を貯蓄する必要がある

苦言を呈するようですが、さすがにこの年齢までノープランできた方は珍しく、正直、坂戸さんのお話はかなり驚きました。私のお客さまの中にも、お金にまつわること全般が苦手なフリーランスの方は少なくありません。そういった場合、せめて国民年金基金や、所得控除になる小規模企業共済に入っておくことをおすすめするのですが、坂戸さんには、お会いするのが遅すぎました……。

そもそも、国民年金のみの自営業者の方は、厚生年金が上乗せされる会社員に比べ、年金額が大幅に少なくなります。どれほど差があるかというと、平均月額が国民年金で5万8191円、厚生年金で15万1198円となっており、約2.6倍も年金額に差があるのです(令和6年4月の速報値より)。

年金額からも、フリーランスといった自営業者の方はかなり意識的に老後資金を貯蓄する必要があるため、私は必ずiDeCoをおすすめしています。iDeCoは60歳以上にならないと引き出せませんから、浪費癖がある方でもある程度、強制的に貯蓄できるのもポイントです。