FRBはインフレとの戦いを犠牲にしても株高を守る

【エミン】FRBにとって重要なのは、メインストリート(産業界)ではなく、ウォールストリート(金融業界)でしょ。それはいまに始まったことではなく、財務長官のジャネット・イエレン氏もFRB議長のジェローム・パウエル氏も元FRB議長のベン・バーナンキ氏も、みんなどちらかというとウォールストリートの側の人たちだから、株高を維持するためなら、インフレとの戦いを犠牲にすると思っています。

難しいのは、本当の意味でのインフレをやっつけるには、景気を壊さなければいけないということです。おそらく日本もそうだけど、アメリカもこのままではインフレが収まることはありません。

「インフレファイター」として知られるポール・ボルカー氏は、1979年8月にFRB議長に就任して、めちゃくちゃ金利を上げました。当時のアメリカは、第2次石油危機の影響で、深刻なインフレ状態にありました。それをやっつけるために金利を上げたのです。そのときと同じように、ここからさらに金利を3%ぐらい上げて、すべてを一度クラッシュさせれば収まると思うけど。

アメリカの株式市場が元気な理由は明白

【パックン】でも昨年の春から、ずっと株は元気でしょ。少しのアップダウンはあるけど元気だから、それほど気にしなくていいんじゃない?

【エミン】なぜ株が元気かというと、アメリカのフィナンシャル・コンディションが緩和的な状況にあるからです。シカゴ連銀が算出しているFCI(フィナンシャル・コンディション・インデックス)をみると、ものすごく緩和的な状況にあります。

金利が5.5%でもアメリカの引き締めは、ほぼ効いてないというか、いまだに緩和的なのです。これが引き締め方向に動かないとダメですね。

*長短金利、信用スプレッド、ドル相場、株価など幅広い市場や経済の動向からお金の巡りやすさなどを測る指標。

【パックン】インフレ対策にね。

【エミン】そう。引き締め方向に動くとインフレ対策になるけど、いまはまったくそうなっていない。

もう1つ、コロナのときにばらまいたお金は2.1兆ドルですけど、その貯蓄が3月に底をついて、いまはマイナスになってきています。いままではその分が余剰キャッシュとして、消費に回っていた面がありましたけど、それがいよいよ底をついてきたということは、消費が弱くなる可能性があります。

実際に小売の数字は弱くなっていますから、その意味ではリテール(個人消費)が弱くなったり、アメリカの消費全体が落ち込んで、インフレは少し収まるかもしれません。

バイデン政権が1つ成功したのは、戦略備蓄を使って原油を放出して、原油価格が上がらないようにしたこと。そのおかげで大きな原油高にはなりませんでした。

ただ、根本的な問題としてインフレを抑えるなら、本当はもう少し利上げをしなければならない。ただ、それをすると株式相場が崩れる危険があったので、株高を守りインフレとの闘いも続けるという、いいとこどりの政策になってしまった。

それでインフレが収まるわけはありません。株高でインフレが収まるわけがないことはよく考えればわかります。