これまでの皇室の血筋が途絶えてしまう
まず、第102代・後花園天皇以来、今の天皇陛下に至るこれまでの皇統は途絶える。
それに取って替わるのが、“もう1つの皇統”などといわれる北朝第3代・崇光天皇から栄仁親王(伏見宮第1代)→貞成親王→貞常親王へと受け継がれた伏見宮の系統だ(第2代・治仁王の血筋は受け継がれていない)。
いわゆる旧宮家はすべて旧伏見宮の系統で、広い意味で皇室の血統を引いていても、もはや皇籍離脱して“国民の血筋”になっている。だから、もし旧宮家系の天皇が即位すれば、それは歴史上かつて例を見ない、国民の血筋を引いた(父は元国民からの養子で、祖父母はともに国民という)天皇の登場を意味する。
それまでの皇統から、新しく“旧宮家王朝”に交替するといえば、事態の深刻さが伝わるだろうか。
こんな事態になれば、天皇という地位の権威も正統性も、深いキズを負うだろう。国民の素直な敬愛の気持ちも致命的に損なわれかねない。
もし平将門が即位していたら
歴史上の事例で説明すれば分かりやすいかもしれない。
第50代・桓武天皇は平安遷都を行った天皇として広く知られているだろう。その桓武天皇から血縁で5世代離れた子孫に平将門がいる。天皇の男系子孫なので(広義の)「皇統に属する男系の男子」の1人だ。
有名な「平将門の乱」を起こし、“新皇”を自称して関東の独立を企てたとされる。
この人物は、養子縁組プランの対象になる旧宮家子孫のケースと同じく、皇籍を離れてから3代目に当たる。天皇との血縁なら、旧宮家子孫だと22世(!)という遠さになるので、それよりも遥かに“近い”。
それでも、もし平将門が天皇になっていたら、(広義の)「皇統に属する男系の男子」の即位であっても、明らかに王朝交替と見なされたはずだ。
それは同じく天皇の男系の血筋につながる平清盛や源頼朝、足利尊氏など、他の誰でも同様だ。
過去には例がない「国民の血筋」の即位
ちなみに歴史上の異例とされる、第59代・宇多天皇が皇籍離脱後わずか3年ほどで、お子様の第60代・醍醐天皇などと一緒に皇籍復帰したケース。この場合はどうか。
両天皇とも「天皇のお子様」(宇多天皇は光孝天皇の子、醍醐天皇は宇多天皇の子)という立場で即位しておられる。なので“国民の血筋”の介在はない。よって当然、王朝交替に当たらない。
また、第26代・継体天皇は応神天皇の5世の子孫とされ、歴代天皇の中で天皇からの血縁が最も遠い。しかし、当時は皇籍離脱の制度がなかった。だから、遠い傍系ながら皇族(当時はまだ「天皇」という称号が未成立なので正確には王族)のお子様として即位したことになる。
つまり国民の血筋は介在せず、これも上記のような王朝交替と見ることはできない(歴史学上の王朝交替説をめぐる詳しい議論については拙著『日本の10大天皇』幻冬舎新書など参照)。
要するに、国民の血筋となった平将門や源頼朝などが即位するような事態は、過去にまったく例がなかった。