親の介入で余計にこじれてしまう

とはいえ、親が何でも正しく判断してくれるということはありません。

親は、自分の子どもかわいさに「相手が悪い」と言いがちです。親の介入の度合いが大きければ大きいほど、条件の提示や妥協といった段階を踏むことができず、「息子は悪くないから何も払わない」「相手が謝るべき」といった主張に終始して話が進まなくなります。これは、夫が不倫している、いわゆる有責配偶者である場合も同じです。

妻の側も、夫の両親が離婚の話に乗り出してくるのを拒まない傾向にあります。特に、夫の家が裕福だと、「親が介入すれば息子を説得してくれそう」「お金を払ってもらって早期に離婚できそうだ」と思うためです。

しかし先ほど書いた通り、実際はその反対です。

親が息子の味方をするため、たとえ息子が不倫やモラハラをしていたとしても、肩を持って話がこじれたり長引いたりすることがほとんどです。

味方をするつもりが不利に働くことも

また、A子さんの夫のように、婚姻費用を1円も払おうとしない、それも夫の親が「あんな嫁には払わなくていい」と止めていたというケースがありました。婚姻費用を払わないと、裁判所からの心証はとても悪くなるため、この親は息子の味方をしていたつもりが、息子にとって不利なアドバイスをしてしまっていたことになります。

離婚する時には、金銭面や生活環境の面で、実家の親の理解や協力が必要になることがあります。しかし、離婚はあくまで夫婦自身の問題です。

中年といえる年齢になっている人であれば、何でも親を頼るのではなく、自分で選んだ専門家にアドバイスを求めて、自分で意思決定をするようにしましょう。

親の側も、何でも決めてあげたい気持ちをぐっとこらえて、子ども自身に任せ、求められた時に協力をするという姿勢でいることが重要です。

堀井 亜生(ほりい・あおい)
弁護士

北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。