テレビ局の検証報道は不十分で説明責任を果たしていない

特にジャニーズタレントを長年起用してきたテレビは、「未成年のタレントを守ることを怠った企業」の片棒をかついでいたわけだ。テレビ局による検証報道は一部で始まっているが、テレビ朝日のように無視したままのところもある。また、検証報道をしても、一方でジャニーズ事務所側の会見指名候補リストに名前が載り、実際にお手盛り質問をしていたTBSのような事例もある。

テレビへの信頼を回復するには、(1)ジャニー氏が性加害をしていたことを薄々でも知らなかったのか、それをなぜ放置したのか、という問題に加えて、(2)番組制作や報道をする上で、ジャニーズ事務所からどのようなメディアコントロールを受けてきたか、(3)見返りとして、編成や制作部門は便宜供与を受けていなかったか、などについて、第三者委員会による調査を行うべきだ。これは新聞や雑誌も同様だ。

第四の協力者は、意外かもしれないが、実は所属タレント自身。東山氏も井ノ原氏も、旧経営陣の弾除けのように使われ、人生の目的だったはずのタレント活動に支障が出て、自らのイメージまで毀損されている。それでも事務所の新しい顔として支え続けている。だが、この事務所は、タレントを守ることを怠ってきた組織だ。そして、そうした2人が上に立つことによって、他の所属タレントが今後、自由に行動する権利を妨げている恐れがある。

2023年10月2日、東京都千代田区(フォーシーズンズ ホテル大手町・グランドボールルーム)でのジャニーズ事務所会見
撮影=阿部岳人
2023年10月2日、東京都千代田区(フォーシーズンズ ホテル大手町・グランドボールルーム)でのジャニーズ事務所会見

第四の協力者は事務所に献身的な態度を見せるタレントたち

2人が体現する自己犠牲的で献身的なタレント像がもたらす弊害についても、考える必要がある。ジャニーズタレントは元々、まじめで行儀がよく熱心、という「いい子」のイメージが強い。ジャニーズだけでなく日本の若いタレントには、制度の枠内で期待された役割をこなす、利口で従順な印象がある。それは、反抗的で当たり前とされるアメリカのティーンエイジャーのイメージとは正反対だ。

もちろんそれが悪いわけではない。だが、何十年もずっと噂レベルで存在しながら、なぜジャニーズ事務所の児童性虐待は問題化しなかったのだろうか。背景には、こうした従順な子供を求める予定調和的に平穏な日本特有の空気がある。その意味では、ジャニーズ事務所が分割されようが、社名が変わろうが、タレントの出演CMや番組がキャンセルされようが、何も変わりはない。

タレントを大事にしないジャニーズの企業風土を変えていく動きが、タレントの内側から出てきてこそ、ジャニー氏がもたらした大きなダメージを乗り越え、日本の芸能界を新しく作り替える大きな力となるはずだ。

柴田 優呼(しばた・ゆうこ)
アカデミック・ジャーナリスト

コーネル大学Ph. D.。90年代前半まで全国紙記者。以後海外に住み、米国、NZ、豪州で大学教員を務め、コロナ前に帰国。日本記者クラブ会員。香港、台湾、シンガポール、フィリピン、英国などにも居住経験あり。『プロデュースされた〈被爆者〉たち』(岩波書店)、『Producing Hiroshima and Nagasaki』(University of Hawaii Press)、『“ヒロシマ・ナガサキ” 被爆神話を解体する』(作品社)など、学術及びジャーナリスティックな分野で、英語と日本語の著作物を出版。