アメリカやイギリスの性加害事件は社会正義の実現を重視

海外でも、アメリカのペンシルベニア州立大学で起きたアメフトコーチによる未成年の少年の性加害事件では、存命の被疑者は当然逮捕されているし、イギリスのジミー・サビル事件でも、被疑者死亡の下、捜査が行われている。その上でさらに、性加害の現場となった組織が、外部の人間に委託して内部調査を行っている。つまり警察による捜査と、当該組織による内部調査の二本立てで全容解明の努力がなされ、それを通じて社会的正義の実現がはかられている。

それに比べ、ジャニーズ性加害問題では、警察の捜査による全体像の取りまとめといったことはされず、再発防止特別チームによる内部調査も、わずか約20人の被害者を対象にしただけ。国際基準から見た場合、いかに不十分かわかるだろう。来日した国連人権理事会作業部会が8月に発表した声明で、「政府が主な義務を担う主体として、実行犯に対する透明な捜査を確保し、謝罪であれ金銭的な補償であれ、被害者の実効的救済を確保する必要性」を口にし、国の関与を求めたゆえんだ。

公訴時効があったとしても、ジャニー氏とジャニーズ事務所は、本来であれば法的責任があるという認識を公的に共有する作業が必要なのだ。

第三の協力者は公的機関の介入を主張しないマスメディア

公的機関が関与すべきもう一つの理由に、社会的影響の大きさがある。ニュースとして連日大きく報じられる中で、女性など、ジャニーズ事務所と直接関係のない性暴力の被害者たちも、大きな心理的苦痛を受けている恐れがある。

さらに今後も、ジャニー氏やジャニー氏以外の加害者による性虐待の告発が頻発する可能性がある。現にNHKが10月9日、局内でジャニー氏による性加害が行われていたと報道したばかりだ。つまり、いつまでたっても適切な対処が行われている、という社会的な認識が得られない。これも包括的調査による全容解明がなされないからで、だから大きな枠組の下でまとめていくプロセスが必要なのだ。

会見に集まった報道陣は合計294人。テレビ局各局も生中継を行った
撮影=阿部岳人
会見に集まった報道陣は合計294人。テレビ局各局も生中継を行った

第三の協力者は、そうした公的機関の介入が必要であると、強く主張しないテレビや新聞、雑誌などの大手メディアだ。これは二重の意味で問題だ。これまで保身と自らの利益のために、ジャニー氏の性加害について沈黙を保ってきたのに、それを反省すると言いながら、再び報道機関として果たすべき役割を怠っているからだ。4つの協力者グループの中では一番罪が重い。