5つめの謎は報道陣のリテラシーの低さ

石川レポーターは、これまでも芸能界の重大会見に出席してきただけに、取材する側も対策ができていなかったのではと感じている。

「取材する私たちが、『これは組織的な性加害を起こした会社の会見だ』ということをどこかできちんと示さなければいけなかった。最初は(報道のプロである)新聞社などの代表質問にすれば良かったのにという思いはある」

ベテランとして、後続のレポーターに苦言も呈する。

「(特定の質問に対して)答える気がない人に何を聞いても無駄なんですよ。そもそも被害者への補償額などは決まってないのだから、答えようがない。今回、会見がこんな荒れ方をしたのは、今の記者がみんなへたくそだから。1人1問と言いつつ、いくつもだらだら聞いて質問中に説教までして、問いが長すぎるから、他社の記者と連携して聞くことができなくなる。

昔は梨元勝さん(故人)など会見を仕切れる人がいて、単刀直入に短い質問をし、次々に他の記者が関連質問をしたので、つながるし、結果的に内容が深まった。ジャニーズ事務所は(4時間かかった)前回の会見の反省から、2時間1社1問にしたのだろうけど、あんなやり方じゃ1社ずつ制限を設けずにやってもダメ」(石川氏)

ジャニーズ事務所は早急にもう一度会見を開くべきではないか

編集部の小田さんも、取材する側として考えさせられたという。

「私自身、質問時に性加害問題の核心に切り込めず反省していますが、1問1答で短く済ませ、次の人に回そうとは思っていました。本当は、9月に『今後1年間、タレントのギャラを事務所分は取らず、タレントに100%支払うようにする』と発表したジャニーズ事務所が、エージェント制になるとギャラはどうなるのかなど、新体制について質問したかったが、それは質疑応答後半で他の媒体が聞いてくれるだろうと見込んでいました。しかし、1社1問という制限をかけられ、会見も混乱し、そんな基本的な質問も出ずに終わってしまい、とても残念です。

YouTuberなど、大手メディアではない質問者の言葉遣いで気になったのは『このたびは会見を開き機会を与えてくださってありがとうございます』というお礼。そんなあいさつは必要ありません。『(新体制でのタレントケアを)ちゃんとやってくれると思いますけれど、心配なので質問させてください』というへりくだった言い方も気になりました。これは問題を起こした企業の会見であり、質問者が下手に出るのはおかしい。できれば報道サイドは毅然きぜんとした態度で、一緒に追及していきたい」

事務所や運営会社の強引な手法と報道陣の混乱で、見守った多くの人たちにとってもスッキリしない内容になった今回の会見。ジャニーズ事務所は、今回の反省をもとに、もう一度、まっとうな質疑応答の場を開くべきではないだろうか。

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
ライター

1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーライターに。ドラマコラム執筆や著名人インタビュー多数。エンタメ、医療、教育の取材も。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など