この30年、被害を訴え続けたが、忖度の構造に潰された

被害者ってそういうものなんだよ。当事者の会の石丸志門副代表だって、40年前のことを2023年の6月になるまで「性被害」だと認められなかった。それまでは「被害だとは思っていない」ということで自分をなだめるしかない。その気持ちは被害者じゃなきゃわからないと思う。

私が当事者の会の代表を務めているのは、まさにこの仕事は自分にしかできないと思っているから。その頃には「性加害」「性被害」という言葉もなかったけれど、1980年代からジャニーさんの性加害については書いてきたし、いろんな雑誌や媒体でこのことを取り上げてもらえるように働きかけてきた。でも、ジャニーズ事務所への忖度から、実際に記事や番組になることはほとんどなかった。「報道しましょう」と言ってくれたメディアの人も少なからずいたけれど、結局は実現せず、後ろを振り向いたらもう誰もいない……。この30年、その繰り返しだった。

東山新社長と40年ぶりに会い、腹を割って対話したい

だから、自分が協力したBBCの番組が放送されて半年、当事者の会を立ち上げてから3カ月で、ここまでこぎ着けられるとは思わなかった。急展開すぎて怖いような気もしている。でも、やっと救済への動きが始まったわけだから、ジャニーズ事務所の変化を素直に評価したいし期待したい。会見で東山新社長は「法を超えた救済補償が必要。夢や希望を握りつぶされた彼ら(被害者)と、(タレントを引退して)夢を諦めた僕としっかり対話する」と言ってくれたので、ヒガシとも18歳で退所して以来、40年ぶりに会うことになるんじゃないか。そのときは腹を割って話せたらいいなと思っているよ。

「東山社長とは腹を割って話し合いたい」という平本さん
撮影=阿部岳人
「東山社長とは腹を割って話し合いたい」という平本さん

ただ、本当にまだ事態が動き出したというところ。10段階のうち1か2ぐらいまでしか来ていない。そして、自分たちが救済されて初めて、違う場所で性被害に遭っている人たちのために動ける、少なくともアドバイスはできると思うので、一つひとつの段階を勉強だと思って全力を尽くしていく。それしかできないよね。

構成=村瀬まりも

平本 淳也(ひらもと・じゅんや)
ジャニーズ性加害問題当事者の会代表

1966年生まれ。1980~1985年、ジャニーズ事務所でジャニーズJr.として活動。退所後、1989年、北公次著『光GENJIへ 最後の警告』(データハウス)で性被害の告白文を発表。1996年著書『ジャニーズのすべて 少年愛の館』(鹿砦社)を発売する。2018年ごろからBBCのドキュメンタリー番組『J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル』に取材協力。2023年6月26日に二本樹顕理と中村一也が発起人となった「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の代表となる。