海や川で流されてしまった時にはどうしたらいいのか。小学校などでは「大の字背浮き」の姿勢で救助を待つよう教えられることが多いが、日本水難救済会では、背浮きは難しく、特に海では危険だとして「イカ泳ぎ」を推薦している――。

「背浮きはムリ」の動画が一気に拡散

日本水難救済会の公式X(旧Twitter)の投稿が大きな話題を呼んでいる。海や川などで万が一流されたときには、浮いた状態で救助を待つのが基本とされているが、多くの小学校で教えられている「大の字背浮き」では1分も浮いていられない――。そのことを、同会の常務理事で、元海上保安学校長の江口圭三さんが自ら実証実験した動画つきで伝えるものだった。

2023年8月7日に投稿されるとまたたく間に拡散され、同月末までに閲覧数1145万回、「いいね」2.5万件を記録。同会の公式Xは、海での事故・救助事例の発信を目的に2022年2月に開設されたばかりだ。理事長の遠山純司さんは「こんなにバズるとは思いもしなかった」と驚きを隠せない様子だった。

日本水難救済会理事長で、元第三管区海上保安本部長の遠山純司さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)
日本水難救済会理事長で、元第三管区海上保安本部長の遠山純司さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

「大の字背浮きは、口と鼻を上に向けて手足を広げ背中で浮くものです。私は海難事故に携わって40年になりますが、この業界では以前から『大の字背浮きは無理だよね』という声が上がっていました。疑問を持ちながらも周知の工夫をしてこなかったことへの反省もあり、海をよく知るわれわれが適切な浮き方を広めなければとの思いで投稿しました」

日本水難救済会は、海で遭難した人を助けるボランティア救助員の支援団体だ。メンバーには海上保安庁の出身者も多く、遠山さんと江口さんも元海上保安官。いわば海のプロであり、どんな行動が事故につながるかは骨身に染みて知っている。そうした立場から、今回の投稿の背景には使命感に似た思いもあったという。 

波がかかって呼吸が続かない

6月中旬、まずは大の字背浮きのリスクを検証しようと、日本ライフセービング協会と合同で、横浜海上防災基地内にある波の出るプールで実証実験を実施。元海上保安官やライフセーバーなど、泳ぎの達者なメンバー4人が大の字背浮きに挑戦した。

その結果、全員が1分も浮いていられなかった。原因は「呼吸」。大の字背浮きは確かに浮力を保つことはできたものの、顔に波がかかってしまい、全員がすぐに呼吸できなくなってしまったのだ。

「水面から顔の2%が出ていれば呼吸できるという話も聞きますが、実際には2%では無理です。常に顔に波がかかる状態なので呼吸もできず、鼻から水が入る可能性も高い。そうなればパニックに陥る恐れも大きくなります」(遠山さん)