第四は、誰かに知らせること。これには、声を出す、片手を上げて振る、ライフジャケットに付いている笛を吹く、防水パックに入れた携帯を持っていれば通報するなどの手段が考えられる。通報先は海での事故なら118番(海上保安庁緊急通報)、川なら119番だが、どちらにかけても迅速に連携がとられ、救助隊が駆けつける仕組みになっている。その後は、できる限り体力を消耗させずに救助を待つことが大切だ。

「助けを求める際、大の字背浮きの状態で大声を出すと水を飲み込んでしまったり、肺の空気が出て沈んでしまったりする恐れがあります。助けを求めることができないのは致命的なことです。その点、イカ泳ぎは声も出せますし、浮いたままで片手を上げることもできる。片手を振るのは、ライフセーバーに救助を求める際の世界共通の合図です」(江口さん)

8割の事故は海水浴場の外で起きる

もちろんイカ泳ぎも万能ではなく、これさえできれば必ず助かるというものではない。最も重要なのは正しい知識と事前の備えだ。悪天候のときは海に近づかない、遊泳禁止区域や監視員のいない場所では泳がない、泳ぐ際はライフジャケットを着用する、できれば携帯を防水袋に入れて持っておく――。遠山さんは「知識も備えもなしに海に入れば最悪の事態を招きかねない」と訴える。

「昨年、溺水者が出た海の事故のうち、約8割は海水浴場以外で起きています。その場の思いつきで海に入るのは絶対にやめてほしい。いちばんの事故対策は、そもそも浮いて救助を待つ事態に陥らないようにすることなんです」

こうした心構えは川や湖でも同じだ。これからの季節はキャンプやバーベキューなどで水辺に出かける人も多いだろうが、「その場の思いつきで水に入らない」は海と同じく鉄則として覚えておきたい。

特に川は、場所によって突然流れが変わったり深くなったりするうえ、川底も滑りやすい。万が一水に落ちたり流されてしまったりしたら、足を下流に向けてイカ泳ぎで流される。その状態で流れがゆるい場所に着いたら、岸に上がるかイカ泳ぎで浮きながら救助を待ってほしいという。