「友達が少なく実家とも疎遠」が危険なワケ

A子さんの夫は、友達が少なく実家とも疎遠でした。実はこれはモラハラをする人に非常に多く見られる特徴です。

人付き合いがないのは不倫の心配がない、実家と疎遠なら嫁姑問題がないと歓迎する人もいますが、親しい人が全くいないというのは、それまでの人生で誰とも継続的な関係を築けていないということです。

人付き合いがないと、夫婦が家の中で長時間顔を合わせることになります。夫婦仲が良好な時はそれでよいですが、夫がモラハラ的な言動をするようになると、お互いに逃げ場がなくなってしまいます。

友達や職場の同僚と飲みに行くこともないので気分転換もできず、常にストレスの矛先が家族に向いてしまうのです。

また、A子さんに詳しく話を聞くと、夫は子どもが生まれる前、「父親に厳しく勉強や空手をしろと言われた、二度と思い出したくない」と言っていたそうです。

厳しく教育されて地方の国立大まで行ったものの、両親とはそりが合わなくて疎遠になった。しかし子どもが生まれると、嫌だったはずの厳しい教育を子どもにも始めてしまったのです。

こういった負の連鎖も、モラハラ家庭に多く見られます。

なぜ教育にのめり込むようになったのか

ちなみに、夫は有名企業に勤めていましたが、出世コースからは外れていて、帰宅が早いのはそのためでもありました。

A子さんは国立大卒で会社員だから優秀なはずと思って結婚しましたが、実際は、育った家庭と現在の職場の両方にコンプレックスを持つ人だったというわけです。

コンプレックスと、人付き合いのない性格。おそらく夫にとって国立大に合格したことは、つらい記憶であると同時に唯一の成功体験だったのでしょう。

その結果、子どもを東大に入れないといけないと考え、教育にのめり込むようになったのです。

とはいえ、この夫に中学受験の経験はありませんでした。そのため、「俺は寝ないで勉強した」などの自慢は高校生の時の話です。

実際の中学入試は勉強時間よりも発想や柔軟性も重視されますが、夫はそういった知識もなく、ただ難しい問題を延々と解かせるだけの勉強法を強制していました。

こういったタイプの父親は、塾に行かせないことも特徴です。妻が塾に行かせたらというと、「塾は金もうけでやっている」「塾講師は負け組」などと塾を猛批判するという話もよく聞きます。

おそらく、自分が親に監視されて勉強をしていたことで、自分の監視下で勉強をさせるのが一番良いという思い込みがあるのだと思われます。プロに任せるという発想がないことも、モラハラ夫に共通する特徴です。

コンプレックスの末に、子どもに過剰な勉強を強制してしまったA子さんの夫。おそらく本人自身も楽しくはなく、息の詰まった毎日を送っていたのだと思われます。

話し合いをしても自分の姿勢を見つめ直してくれない場合は、A子さん夫妻のように、離れる選択肢を考えた方がよいでしょう。

堀井 亜生(ほりい・あおい)
弁護士

北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。